10.荒波 ページ36
「ねぇ、もしかして……」
ぴんときて検索窓にキバナの名前を入れてみる。
そう、他のバンドが過激な言動をしたときに「荒れる」と聞いたことがある。
SNSサイトに、火が勢いよく燃えるかのように好意的ではないコメントが集中的に投稿されることだったか。
キバナさんかっこいい、などのコメントを受け流して、見つけた。
「う…わ……見ないでおくね」
「それが良いと思うよ。相手にしてたら気が滅入っちゃう」
Aはスマホロトムを伏せた。
そこに並んでいたのはファンゆえの悲鳴、怒り。
Aがセミファイナルトーナメント出場者であること、名前くらいは調べがついているらしい。
自宅が見つかっていないのは、外泊が多いのと窓から帰宅することが多いからだろうか。
「ルリナもよくスキャンダルでっち上げられてるけど……こうなるの？ 」
「私は見てないわ。SNSも結構マネージャーに任せてるし」
「そっか、モデルさんだもんね」
Aはじっとこちらを見つめるスマホロトムを見つめ返した。
キバナはこれを見たんだろうか。
「A、気にしすぎちゃダメよ」
ルリナがテーブル越しに手を伸ばして、Aの手を取った。
温かい飲み物を飲んでいるからか、その細い指先まで温かい。
「そうだよ！ Aのせいなんてこと絶対ないから！ 落ち込むの終わり！！ ほら！ 」
ソニアももう片方の手を取る。両手でぎゅっと。
「……うん、そうだね。キバナくんに迷惑かかってないか、ちょっと心配だけど」
「大丈夫よ、きっと」
「すみませーん！ 」
ソニアが店員を呼び寄せた。
メニューを指差して、これと、これと……とケーキを注文していく。
「ソニア、そんなに食べるの？ 」
ルリナが怪訝そうにソニアを見る。
ソニアはにこりと笑った。
「Aがね」
「えっ」
Aは思わず声をあげた。
「えっ？ 私？ 」
「うん。私不安になったり、心が弱ったりした時はたっくさん寝て！ たっくさん食べるの！ だからAも、甘いもの食べたらちょっとは元気になれるよ」
ソニアらしい励まし方に、笑いが込み上げてくる。
「ふふ……あはは、ソニアらしいよね、そういうとこ。ありがとう。でも私そんなに沢山食べられないよ」
「良いじゃん、それなら3人で食べよう。ね？ 」
「もう、ダイエット中なのに」
そう言いながらルリナも楽しそうだ。
ルリナはAの視線に気づくと、苦笑しつつ言った。
「不安なことがあったら私たちにでも、キバナにでも、ちゃんと言うのよ」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
