5.はじめまして ページ31
「ありがとうございました、ポプラさん。その……あの子のことが気がかりだったので」
「後継ぎに相応わしい子を見つけただけさ」
Aは思わず苦笑する。
そうだ、この人はこういう人だ。
「彼が……ビートくんがこんなにも早く立ち直るとは思っていませんでした。我々も、もっと早くにローズ委員長とオリーヴさんの動きを掴めていれば……最初からこうはならなかったのかもしれませんが」
「過去のことを悔やんだって何にもならないさ。アンタたちだって、やれる限りのことはやったんだろう？ 」
また情けないところを見せてしまったAに、ポプラはそっけなく、暖かく言葉を向けた。
「それに、あの子が立ち直ったのはあの子自身の力さ。あの子は根性も才能もあるからね」
「……そうですね、あの子は聡明で、努力もできる子です」
ポプラはあくまでも自分のことを持ち上げられたくはないらしい。
代替わりをして退いた自分のことは気にするなと、そう言われた気がして、Aはビートのことを褒めることにした。
「お待たせしました」
ビートがティーセットを持って戻ってくる。カップは２つ。
「何やってるんだい、カップが１つ足りないよ。ほら、取ってきな」
「……！ はい！ 」
ビートが幼子のように嬉しそうな顔をした。
その事実に、Aは目を丸くする。
Aはビートを知らない。彼に何もできなかったのに、身勝手にも涙が溢れそうになった。
「アンタもまだまだお子様だね」
「……はい、そうかもしれません」
Aは涙を引っ込めて笑った。
ビートがティーカップを持って戻ってくる。
彼の選んだティーセットには、
「……なんて顔してるんだい」
ビートが紅茶を淹れているのを見ている間、ポプラが声をかけてくる。
「えっ」
「泣きそうなのか、笑いたいのか、どっちかにしな」
「えっ、あっ……すみません」
指摘されて慌てて顔を引き締める。
「……ムスカリの花だなと、そう思って」
「良い茶器だろう？ 」
「ええ、とても」
ビートが紅茶の入ったティーカップを配って、じっとAを見つめる。
「あの……以前、お会いしましたよね」
「ええ。ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません、ビート『さん』」
そう言って微笑む。
「試合中のお客様の安全をお守りする仕事をしています、リーグスタッフのAと申します。……はじめまして」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
