10.面倒なこと ページ22
「ここにいましたか。キミもいたんですね」
関係者以外立ち入り禁止のドアが開かれて、ネズが入ってくる。
前者はキバナに、後者はAに向けられた言葉だ。
「おう！ ……なんだ、そいつら？ 」
「お疲れ様です、ネズさん。彼らは何故ここに？ 」
ネズの背後から現れたのは赤と青。
先ほどAとぶつかったあの不審者だ。
さっきはしゃきんとしていた髪が、どこか萎れたように見える。
「こいつらが各スタジアムでのポケモンのダイマックスを引き起こしたんですよ。というわけで、こいつらの処理は任せますよ、キバナ」
「はぁ？ 何でオレさまが！？ 」
「何でって、面倒だからに決まっているでしょう」
面倒ごとの押し付け合いが始まった。
ポケモンたちをそっと部屋の隅に連れて行って大人しくしていると、嫌な言葉が聞こえてきた。
「大体、オレさまはナックルスタジアムのことしか知らないんだから、最初から関わってるオマエが受け持つのが筋だろ？ 」
「つまり、最初から関わっていたら受け持つに相応しいんですよね」
……おっと、嫌な視線を感じる。
「A、でしたっけ」
言葉の先は読める。だがファンの宿命か。
キバナの……でもなく、キミでもなく、スタッフでもない。
ネズがAを認識した。今なら握手会に何度も並ぶファンの気持ちも理解できそうだ。
「えっ、あっ……はい、何でしょう」
心の中は動揺しまくりだ。だが今は仕事と切り替える。
「最初から関わってますよね、キミ。あいつらの処理、任せていいですか」
……次のライブのチケットと物販を確約してもらえるならアリかもしれない。
物欲に負けそうになったが、ソニアの言葉を思い出して何とか踏みとどまる。
たまには任せないと。誰かに。
「すみません、私、ターフスタジアムとバウスタジアムと、ここしか来てないので……他のスタジアムで何があったか知らないんです」
「はぁ……仕方がないですね。オレがやりますか」
面倒ごとの決着はついた。
ネズが大きくため息をつくと、ドアのそばに控えていた男たちがおずおずと口を開く。
「その……すみませんでした」
「ポケモンたちのトレーナーには、ポケモンを迎えに行くよう指示をだそう」
どうやらまだ面倒なことは残っていたらしい。
仕方がないか。Aは諦めて頬を緩めた。
「わかりました。ポケモンの引き渡しは我々リーグスタッフが責任を持って行いましょう」
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
