1.日常 ページ13
「感謝してくださいね、本当に」
「本当に感謝してーる……困ったことがあったら言ってくれ」
反省会議が終わり、見知った顔に声をかける。
ローズの自首と、リーグ本部への報告の状況について。
そこから更に、スパイクタウンのリーグスタッフの責任問題へ話が波及した時に、Aが挙手したのだ。
. . . . ...
ぴりりとした空気感の会議室。
「よろしいでしょうか」
危うく辞めそうになっていた身に、怖いことはほとんどない。
許しを得てから立ち上がり、言葉を紡ぐ。
「ブラックナイトの際に、ナックルシティの住民の避難が迅速に行えたのは、スパイクタウンの助力があってこそです。彼らの妨害行為は、確かに見過ごせるものてはありません。ですが彼らの功績もまた、無視できるものではないのではありませんか？ 」
... . . .
Aの演説の成果か、重い罰は免れそうだ。
スタジアムの掃除をたっぷりさせられそうではあるが。
Aは顔見知りの彼ににっこり笑う。
「じゃあ感謝の印に、ネズさんのライブチケットくださいね」
「う……やってみる」
「ふふ、楽しみにしてます」
エール団、もとい、スパイクタウンのリーグスタッフと別れてから本屋に向かう。
「すみません、Aと申します。予約していた本、入荷しましたか？ 」
.
「『ガラルのれきし』か……結構しっかりした本じゃない。タクシーでゆっくり読みながら帰ろうかな」
スマホロトムを見る。特に連絡は来ていない。
「やっとオフなんだもん、のんびりしてて良いよね」
そらとぶタクシーを呼んで、実家の辺りを伝える。
「あ、ゆっくりで大丈夫ですよ」
本を開いて、読み始める。
仕事も安定して、将来を考え始めて、友達にも恵まれて……大切な恋人もいて。
心がとても穏やかだ。窓から吹き込む風も心地がいい。
「あー……明日はエキシビジョンマッチだっけ」
ジムリーダーたちは不定期にエキシビジョンマッチを行う。
シーズン中ではないとはいえ、観客の入るバトルだ。
Aも駆り出されることになるだろう。
仕事めんどくさいなぁ、という気持ちと、ネズを近くで見られるかもしれない期待と、入り混じってなんとも微妙な顔になる。
「あ、そうだ、ソニアにメッセージ送っておこう」
読み進めたページに栞を挟んで、表紙の写真を撮る。
Aガラルのれきし、買ったよー!
ソニアありがとう!今度サインしてあげる笑
「サインって」
Aはふっと笑った。
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作者名：あくびさん | 作成日時：2020年10月31日 19時
