【ポケモン剣盾】日陰のポケモントレーナー (ページ28)

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27.気のせいページ28

「もしもし、お母さん？うん、私。……あのさ、実家に帰ってもいいかな」
Aは実家の母に電話をかけていた。
夕暮れの橙が美しく、目に眩しい。
「うん…トレーナーは6匹までしかポケモンを持てないでしょ？それ以上たくさん連れ歩くと、1匹1匹の変化に気づけないから。だからさ…解決策を思いつくまで、お母さんとお父さんに私のポケモンを見てほしくて」

ジムチャレンジを終えてからずっと実家を出て暮らしていた。
思えば親不孝だったかもしれない。あまりに早すぎるから。
「うん…迎えに行きたい子たちがいるの」

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引越しの段取りを決めて、もう出さない春物の服は仕舞い込んでしまう。
ネズのポスターやらライブグッズは…実家に戻ったら文句を言われそうだ。
「今のうちに片付けられるのはこのくらいかな」

ふっと今日１日を振り返って我ながらギョッとする。
いくら不安だったとはいえ、キバナに寄りかかって…甘えた。
連れ出して欲しいだなんて、なんと傲慢だろうか。
それでも手を引いてくれた、前へ進むきっかけをくれた優しさに、頼ってしまいそうになる。

「手、大きかったな」
ああやって誰かの手に触れるのっていつぶりだろうか。
恥ずかしく、甘く、温かい気持ちが生まれてしまいそうで、慌てて首を横に振る。
「そんなこと考えてる暇ないでしょ」
引越しのこと、ポケモンたちのこと……受け止めなければいけない過去のこと。

A今日はありがとうございました。

「……ちょっと素っ気なくない？」
少し考えてから、もう一文付け足す。

Aまた、ちゃんと、あの子たちを迎えに行こうと思います。

「うん、昔の私に戻ってほしいだけだもの、きっと」
そんなふうに独り言を呟いていると、サーナイトが覗き込んでくる。
「なぁに、どうしたの？」
サーナイトに声をかけると、彼女はくすりと笑った。
「もう、何なの？」

キバナここのカフェについてくるので手打ちにしてやる

そうやって送られてきたカフェのページを眺める。
「はいはい、SNS映えね」
煌びやかな世界。私には似合わないな、とAは苦笑した。
「あ、でもここ、ラテが美味しいんだ」
スマホロトムの検索結果をスワイプする。
「ふーん、美味しそう。良いじゃん」

……会うのが楽しみなんじゃない。カフェが楽しみなだけ。
Aはクローゼットを開けて、服の吟味を始めた。