Snow cover (ページ36)

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「ほら、戻ろう」

素直に頷いたところを見ると、自分でも無謀だと思っていたんだろう。
腕の中から解放して、背中にそっと手を添えると、小さく震えていた。

そこには触れずに寝室へ。
ベッドに寝かせると、瞳を濡らした翔太が見つめてくる。

「また戻ってくるからね」

頭を撫でて言うと、不満げに布団をかぶってしまった。
喘息の症状が出た時が心配だけど、落ち着いているうちに家事はこなさないといけない。
台所で食器を洗っていると、半分も終わらないうちに携帯が着信を知らせた。

「翔太～大丈夫？」

一応電話越しに声をかけたけれど、どう考えても大丈夫じゃない。
食器を濡れたまま置いて、寝室へと向かった。

そこで、翔太は咳まで頭に響くのか、無理に止めようとして悪循環に陥っていた
胸も上下しているだけで、空気が入っているどうか怪しい。

枕元に駆けつけると、泣いていることも状況を悪化させている原因だと分かった。

でも、ベッドの上で泣いている翔太が、そこまで追い詰められている理由が分からない。

「泣いたらもっと辛くなるよ」

言い返そうとはするんだけど、咳と嗚咽に阻まれてそれもままならないらしい。
言葉を紡ごうとしては、喉から嫌な音を出して咳をする。
吸入器は使った形跡があり、泣いてさえいなければ少しは落ち着くはず。

涙を拭っても、手をさすっても、頭を撫でても、翔太の涙は止まらず、結局その日は気を失うようにして眠ってしまった。
ほっとしつつ、長居をしたことで嫌でも感じる己の熱を持て余す。
ここ最近は、気を抜けば歯止めが利かなくなりそうだ。

お互いのために距離を置くことも考えた。
でも、今さら手放してあげることなんて出来なくて。

「俺のものになってよ」

今はその薄い唇にさえ、触れる勇気がないけれど。