飴細工【伊黒小芭内】 (ページ1)

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金魚ページ1

飴に命が吹き込まれるのをただ、ただ見ていた。

それだけだったのだが。

最近はよく小娘が来る。

鮮やかな袴にブーツ、何ともハイカラな女だった。

パッと見たところ、箱入り娘のような奴。

職人が手を動かす度に、

「すごーい！」

と連発する。

教養がなっていないのか、ただの阿呆か。

どちらにせよ関係ないのだが。

そうして立ったまま鑑賞を続け、時を見計らい踵を返す。

俺が立ち去る直前。

女は嬉しそうに俺に駆け寄った。

「飴細工好きなんですか？」

と、唐突に聞く。

「製造工程を眺めるのが好きなだけだ」

冷たく返してやる。

しかし女は更に目を輝かせた。

「あ、じゃあ今度からこの時間帯で飴細工一緒に見ませんか？」

唐突すぎるだろう。

「すまない、俺は」

「あ、難しいですよね、じゃあ私…」

いかにも俺に興味ありげに語る女。

逃げてもいいが、そいつの純粋な眼に俺は射られたように動けなくなった。

「ここで飴細工の練習しますね！」

待て待て、思考回路がどうなっているか聞いてもいいか。

どうしたらそんな考えになる。

「ふふ、私ね、貴方にとってもとっても興味あるんです！」

俺は取り敢えず任務に向かう為、適当に「ああ」などの適当な返事をし、その場を離れた。

到底無理だ。

信用しない。

あの華奢な手に命を吹き込むことは無理に決まっている。

が、また明日、来る価値はある。

また翌日も。