友だち以上元カレ未満【mfmf】

31日目 ページ32

なんで今日に限って一緒にお風呂に入りたがるんだろう。

別に毎日別々に入ってるのに。

特に今日一緒に入れない理由があるわけじゃないけれど、なんとなく一人の気分だった。





「いったぁ…」



Aが噛んだ首筋の痛みをじんわりと思い出す。



「噛み癖、治ったんじゃなかったの」







不安になったり、甘えたりするときに僕の指を甘噛みすることはまれにあった。

それも別れてから全くなくなったはずなのに



「…もしかして何かあった？」




ハッと、首をさすりながら気づいた。



あの子はいつも僕に心配をかけまいと隠し事をする癖があるんだ。

噛んでしまったのはもしかしたら、なにかAのなかで折り合いをつけられないほどの何かがあったからではないのか。
















気づいたところで、僕はAの心に近づく肩書を持ち合わせていない。

”やりなおしたい”

その言葉を伝えられるタイミングが無い。





伝えたところでAが応えてくれるかわからない。

またお互いの性格上の頑固な隠し事で喧嘩をしてしまうのではないか。




頼ってもらえないのが情けなくて怒ってしまうのではないか。

それが怖くて踏み出せない。





都合よくAとキスをして、体を重ねる関係だけで辛うじてつなぎとめている僕を

Aは許して笑ってくれるだろうか。






もし、今日お風呂から上がってきたAに

やり直そう。ごめんなさい。まだ好きです。


そう伝えられたなら、Aが隠した恐怖を僕に打ち明けてくれるだろうか。





否、僕になら言っても大丈夫って確固たる信頼が、僕にはきっと無いんだ。

だからAは肩書が元カレから、同居人から

彼氏にまた変わっても、きっと教えてくれない。








「もう、手遅れなのかな」








やり直すには、離れるには

時間をかけすぎて






手放せない。別れられない。



もうさようならを取り消せる仲直りの仕方が分からなくなってしまうほど一緒に居すぎた。








「…っ」





じんわりと涙がにじむ。



すん、と鼻をすすって、シャワーの音が止まって、浴室のドアが開く音がして



脱衣所の向こうでも、鼻をすする音が聞こえた。










あぁ、過去の不器用な僕へ


どうして別れようなんて言ったんだ。馬鹿。





まだこんなに大切だよ。












「伝えなきゃ」







タイミングなんて、どうでもいい。











Aの心のすべてが欲しい。

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