90 ページ42
.
Aは滝壺の前で足を止めた。流れ落ちる水と、その周りの岩壁であろう面は、今は全て草に覆われ上へ上へと新芽を伸ばしている。
(気配が複数あるわね......)
Aは辺りに注意しながら声を上げた。
「私に用があるのでしょう？私はここに来た、回りくどい方法は必要ないわ。」
その声が響き渡るや、今の今まで視界に入れていたはずの滝壺の脇に、老人が1人佇んでいた。
「.....あなたが私を呼んだの？」
『それは我であって我ではない。そなたの処遇については幾つか問いに答えてから決まること。』
「処遇.....？一体どういうつも、......どこへ行ったの。」
Aが口を開いている最中、目など一瞬たりとも離していないというのに、老人の姿が消えた。
『まずは此度の魔軍進行について問おう。そなたはこれを殺し、止めたいと願うか。』
再び意識の外から、今度は草の茂った岩壁の側に佇む老人が問いかけてきた。Aはそれに訝しい感覚を覚えながらも、率直に答えた。
「止めたい。でも殺したくない。」
『矛盾している。』
真っ直ぐに視線を置いて話しているはずなのに、今度は少し登ったところから声が飛ぶ。
『では次の問いだ。そなたは此度の戦、死ぬ覚悟、仲間と民を殺される覚悟があるか。』
はぁ、と小さくAはため息をついた。
「無いわ。誰にも死なないでほしい。」
『矛盾している。
それでは最後の問いだ。
そなたのその現実とは矛盾した願い、
そなたがこちら側へ立てば、叶うとは思わないか？
この世界の狭間に立つ者よ。大いなる力を持ち逸脱した存在よ。とうに人の枠を超え、神の領域との境に立つ者よ。
血を流さず、誰も脅かされることのない、お前の願う平和な世界。
その境界さえ踏み越えればそなたは十分に実現できると。』
Aは、思わず俯いて、淡く唇を噛んだ。握り込んだ拳が意図に反して震える。
「...............思う。」
再びすぐ側で、ただ静かで抑揚のない、しかし今度はどこか柔らかい声がした。
『この世界と矛盾して生きる娘よ。
幾度となく"
辛くはないか。』
「.....まぁ、さっき、最後の質問だって言ったのに、ひとつ増えたのね。そんな優しさ、賢者らしくないわ。
あなたは、賢者ラムウ。城の文献で読んだことがある。またの名を、雷帝とする召喚獣がひとつ....。」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
