75 ページ29
.
そうして部員に合流した結弦は、試合の開会式へと臨んだ。
試合会場は、重厚ながら静かな佇まいの大きな弓道場だった。
的の設置された土壁には、この神社の紋であろう、白抜きの模様が施された紫色の垂れ幕が掛けられている。
朝のまだそれほど気温の上がらない、静かな空気の中開会式が執り行われた。
俺はその様子を、各校の部員たちが集まる矢道の垣根から、少し離れた坂の上から見ていた。
そうして試合が始まり、試合ごとに順に矢が飛ぶ。
結弦の順番になると、弓を腰につけ、スッ、と歩み出た。
遠くからでも分かる、その所作は、他とは違うのが一目瞭然だった。そこだけ、空気がやけに静かになったような、そんな美しい所作だった。
そうして結弦が矢を放つと、矢は吸い込まれるように的へ向かい、的の上部へ着地すると、パン、と小気味いい音を立てる。
いつか結弦が言っていた。弓道はアーチェリーのように中心部に中るのが良しとはされないと。的の上半分に中る方が好ましいとされているのだと、語る真っ直ぐな翡翠色を思い出していた。
きっちりと、的の上部に中った矢に、アイツの芯の強さを感じた。
「やぁ、爆豪くん。いつかの廊下ぶり。」
「....ッア"？いつかの少女漫画野郎か。」
「それはどちらかと言うと君の事なんじゃ....いや、話が逸れそうだからやめておくよ。」
「...逸れるには充分すぎるぐれぇ喋っとるけどなぁ...！」
後藤だとか言ったか。ただでさえ結弦に告白なんかしやがっていけ好かねーっつうのに、人当たりの良い笑みを浮かべるその面が余計に神経を逆撫でした。
「今日は結弦先輩の応援に来たのかい？」
「.....まぁな。」
「....さっきの結弦先輩の
先輩は去年もこの大会に出たそうだよ。まぁ弓道経験者っていうのもあっただろうけど、普通は1年のこの時期なんて、射場にすら立たせてもらえないものさ。型の練習から入るからね。
やっぱり先輩は、別格だな。」
「そりゃ素人目にもわかるぐれーすげぇけどよ。.......アイツにだって、弱ぇとこぐれーあんだろ。」
そう言うと、驚いたような顔で後藤がこちらを見た。
「.....そう、か。君にしか見れない、先輩の顔が....、あるんだな。」
「あ？なんか言ったか。」
「いや。」
でも俺は結弦先輩の口から聞くまでは認めないぞ！と訳の分かんねー事を叫ぶソイツを一瞥した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 464人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - くじさん» ひーん....！ありがとうございます...！待ってると言って下さって嬉しいです...！ (2019年5月15日 8時) (
レス) id: 54e9f26b3f (このIDを非表示/違反報告)
くじ(プロフ) - 泉さん» いつまででも待ってるので泉さんのペースで頑張ってください…！！ (2019年5月10日 19時) (レス) id: db6b08d5ff (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - くじさん» 推しカプと言っていただけて最高に嬉しいです^^*うちの子たちが推しと呼んでもらえるなんてなんだかすごい...！活動、一時終了と言って頂けてなんだかほっとしています。。苦笑。またしっかり入れるようになったら書きたいです。 (2019年5月10日 14時) (レス) id: 54e9f26b3f (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - つるぎさん» たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます...！また帰れる場所を作っていただけてとても嬉しいです涙。こんなにも作品をあたたかく愛して頂けて、こちらこそ本当に素敵な読んで下さる方に出会えて感謝です* (2019年5月10日 14時) (レス) id: 54e9f26b3f (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - kazuさん» あたたかいお言葉ありがとうございます....！こちらこそ、素敵な内容で最後に物語を広げて下さってありがとうございました* (2019年5月10日 14時) (レス) id: 54e9f26b3f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2019年2月20日 16時
