恋は盲目、愛は執着【青の祓魔師】 (ページ33)

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第32話夕方不審者ページ33

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『………夢…か…』

辺りが紫色に暮れ出す部屋の中、勢いよく起き上ってから今にも泣きそうな声で呟いた。

『…そう…だよね』

自嘲気味に笑ってからAはため息をついた。
まるであの日のあの時を一言一句丸々再現したような、リアルな夢だった。

"あの日"？"あの時"？
私は何を言っているのだろう。
自分が体験したものではないというのに。

―――“私はずっと、側にいるというのに”

あの声を思い出すと、胸が締め付けられたみたいに苦しくなる。

事故から目覚めた日から、彼のことを思い出さない日は未だない。
彼が誰だかわからない、彼のことを知らないというのに、だ。
消えてしまえ、消えてしまえと思えば思うほど彼の顔が、声が、脳内に浸食していく。

夢はだんだんと鮮明になりつつあった。
私はそれが嬉しいと同時に恐ろしかった。
知りもしない彼を愛しく思える自分が怖かった。

夢だというのに、一体いつから私はこんなに弱くなったのだろう。

否、それは最初から…か。
本当は薄っすらと思い出しつつある。

如何して彼から逃げているのだろう。

自分から彼の手を放したくせに。
何度も彼との約束を破ったくせに。

如何してこんなにも彼を恋しく思うのだろう。

抱きしめられた時の少し冷たい体温とか。
ふんわり香る甘い香水の匂いとか。

たまに見せる独占欲とか。
壊れ物を扱うように優しく触れてくれる指先とか。

―――また今度、といって笑った最後の顔とか。

彼と過ごした時間が、温かさが、楽しさが、頭にこびりついてどうしたって離れてくれない。

項垂れるように頭を抱え、髪をぐしゃりと掴む。
〝今回の人生は、普通に生きたいと願ったくせに〟

はあ…とため息をついてから、寝惚けた頭を冷やすために
洗面台へ行こうと寝台(ベッド)から降りようとした、その瞬間。

「今晩和(グーテンアーベント)☆Aさん！」

聞き慣れた声が、聞こえた。

Aはおそるおそる顔を上げ、聞こえて来た声の方を見た。
そこには、寝台(ベッド)のすぐ横で椅子に座っているメフィストが居た。

『………』

「随分魘されていたようですが、大丈」

«ドガッッ！»
言いかけたメフィストの言葉を遮るように、
Aの投げた枕がメフィストの顎にクリーンヒットした。

『ここは私の部屋なんですけど⁉何で理事長がいるんですか!!!』

赤くなっている顎を抑えながら、メフィストはニヤリと笑いながら言った。