恋は盲目、愛は執着【青の祓魔師】 (ページ19)

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第18話悪魔の思い出ページ19

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理事長室へと向かう廊下を歩いていると、一人の少女が目に入った。
何時もどこかで出会う少女。
入学式後にすれ違った時同様、学園の制服を着ている彼女。

沢山の書類を持っているというのに凛とした美しい所作で廊下を歩いている。

「…何時(いつ)も、どんな時でも、どんな服装をしていても、貴女は私を惑わせる」

腰辺りでふわりと靡く濡れ羽色の髪に、
スカートとガーターストッキングの間から見える足は雪の様に白く透き通り滑らかだ。

彼女が振り向けば見えるであろうピンクダイヤの様に美しい瞳と、
そして宝石の様にキラキラとした大きな瞳を囲む細く長い睫毛。
すっと通った鼻筋に形の整った林檎の様に赤い唇。

まるで―――‥‥人形の様な容姿の貴女に再び出会った日から
私の世界は少しだけ色づき始めた。

「こんにちは」

気づいたら声をかけていた。

…人形は手に取ってしまえば簡単に引き千切れ壊れる。
…雪の結晶は、手に触れた瞬間溶けて消える。
…宝石は、綺麗でぐちゃぐちゃにしてしまいそうになる。

けれど貴女は違うでしょう？

美しい華には棘がある。
儚いのは雰囲気だけで、実際の貴女は毒や棘を隠し持つ綺麗な黒薔薇。
触れた側は傷つくというのが貴女の特徴だ。

だからこそ惹かれた。

『ありがとうございます。でも大丈――』

“大丈夫”？可笑しなことを仰る。
私の知る貴女は悪魔遣いがとても荒い女性(ひと)だ。
遠慮をする姿など気持ちが悪い。

「ではこうしましょう。Aさん、これからお昼でしょう。ご一緒しません？」

先日私が知らない間に愚弟(アマイモン)が貴女に会った経緯は勿論、今の貴女のことを知るには良い機会だ。
あわよくばそのまま記憶が全て戻ってしまえば私としては願ったりかなったりだが……。
そう上手く事が運べば私も苦労なんてしない。

「何が食べたいですか？」

遠慮しているのかこの場を離れたいのか、Aは口を開かない。
ピンクダイヤの瞳はメフィストを映すことなく不安げに揺れている。
メフィストは訪れた絶好の好機(チャンス)を逃がすつもりはない。

口元は弧を描いているが、メフィストの瞳は笑っていない。
Aがメフィストの表情を見ていたら、気づけただろうに。
彼女はメフィストに目線を合わせないことに必死になっていた。

記憶を思い出さないための、彼女なりの防衛本能だろうか。