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それはまるで、天使と悪魔の舞だった。
切なく、静かで、今にも崩れ落ちそうな天使を、しなやかで柔らかく、水の様な身軽さで表現しているが、決して力が抜けきっているわけでもなく、体の軸はしっかりとしている。
そしてサビに入ると、まるで獰猛な悪魔に憑りつかれたかのように、少女の身体は強いしなりを見せた。
一見ビートに乗っていないかと錯覚させるかのような滑らかな動きだが、要所要所で驚くほど気持ちよくテンポに当てはめてくる。
それは動きのキレと緩急の付け方が、非常に良い者にしかできないことだ。
そして最も審査員たちが驚いたのは、その振付の独創性だ。
見る者に次に何が来るか分からない高揚を与え、かと思えば力強い動きで見せる振りは期待を上回って来る。
見ていて飽きない、もっと見たい。
曲が終わりに近づくにつれ、誰もがそう思わずにはいられなかった。
曲が終わると、審査員たちは口を半開きにして固まっていた。
ワンコーラスの２分が、まるで数秒に感じられた。
少女は僅かに早くなっていた呼吸を整えると、真っすぐ背筋を伸ばして言った。
「僕はこの世界に“女”として生まれました。ですが心は男として、生きてしました。好きになるのも、胸が高鳴るのも女性です。
こんな大きな“欠点”を抱える僕に、ダンススタジオの先生が自分らしく生きるチャンスを与えてくれました。
音楽の世界で自分らしく生きていくことが許されるならば、体が女である事を死ぬまで隠してもいい。手術を受けても良い。
それでいつか世間のさらし者になったとしても、僕は自分の持てる能力のすべてを懸け、死ぬまでその壁を乗り越えていくつもりです。
だからどうか……よろしくお願いします」
少女、否、少年としてそこに立つ菅野Aは、そう言って深々と頭を下げた。
シヒョクは、漸く秘書の言葉の意味を理解したと同時に、今朝相談に乗って貰った大手事務所の言葉もここでようやく腑に落ちた。
――“完璧だと思っていた人間の欠点”は、何よりも大衆を惹きつける魅力になる。
間違いない。
なぜなら、シヒョク自身が今、その大衆の気持ちになっているからだ。
「君、なんでもいいから歌を一曲、歌ってくれるかい？」
パン・シヒョクの提案に、他の審査員たちもうんうんと頷いた。
「日本の曲でも、洋楽でもいい。できれば、ワンコーラスでなるべく音程に高低差があるものを」
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作者名：グミカン | 作成日時：2019年10月14日 2時
