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「高低差がある曲……では『東方神起』のForever Love、を、歌います」
そう言った少女は、柔らかい微笑みを湛えたまま、だが瞳の奥に陰りを落とした。
その僅かな変化を見逃さなかったシヒョクだが、今そこで踏み込むには確信が足りない。
カラオケ音源を探しに行った秘書が、戻ってきた。
スタジオの機材にCDを差し込み、確認のため一度音源を流す。
「準備が整いました。始めます」
「よろしくお願いします」
秘書が再生ボタンを押すと、クリックの音が鳴る。
と同時に、少女がゆっくりと息を吸った。
『まっすぐ……二人を照らした……夕焼け、煌めいている』
『今まで……感じたことないくらい、胸の、深くが、熱い』
審査員たちは、少女が発するその声に、ハッと視線を上げた。
『独りでも平気さなんて……言い聞かせながら……自分に嘘を、ついて』
『過ごしてきたけれどこれからは……』
その声音は、まるで少女のものとは思えないほど深く、どこか青年的な色気を含むものだった。
ハスキーと言うには何かが足りない、掠れた低温は男性的な響きを持っている一方で、僅かに女性特有の儚さと母性を感じさせる。
審査員たちは目を塞ぎ、聴き入るように耳を済ませた。
『何度も何度も……送るよ……君が探しているもの』
『迷いの全てを……溶かして……生きていこう、Forever Love』
ワンコーラスが終わり、秘書が音源を止めた。
静寂がスタジオ内に漂う。
少女は緊張の面持ちで、審査員たちを見つめた。
「あぁ……とても……とてもいい声です」
「技術面では課題が多くあるが、確かに声質は素晴らしい……」
「高音も張りがあって自然に出ていたし、なにより表現力が高い」
「女と聞いて高い声を想像していたが、思ったよりも低くて、それに違和感がなかった。その声は元々かい？」
簡単を漏らした一人の言葉を皮切りに、審査員たちが口々に意見を述べていく。
「いくら男らしくなりたいと思っても、声だけは……変えられませんでした」
それは、少女の声質が元々のものであるという意味だ。
謙虚にそう言った少女に審査員たちが感慨深げな視線を見せる一方で、ただ一人、シヒョクだけは真剣な眼光を向けていた。
「君……アップテンポの曲は歌えるかい？ 踊りながら」
シヒョクの言葉に、少女は目線を下げ、考え込んだ。
「なんでもいい。好きな曲を」
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作者名：グミカン | 作成日時：2019年10月14日 2時
