フリーホラゲー好きによる自己満足短編集

キミガシネ　アリス　リク ページ43

「でね、上司が言うの。
『暇があるならこの資料やって頂戴』って」


牢屋の前。

鎖につながれたボーダー服の男の前で、
髪の長い女性がしゃがんでいた。

男の方を向いたその顔は、それはそれは美しい。

……まぁ、私なんだけど。


しかしその顔も、今は般若のように歪んでいる。
拳を握りしめた私は、ついに抑えていた声を荒げた。


「暇じゃねぇわこっちも！トイレ我慢してパソコン打っとんじゃ！
大体暇なのはそっちだろ？仕事中に遊びの約束取り付けてるくせに！」


ぜーぜーと肩で息をしながら、怒りで全身を震わせる。
全身の血液が沸騰するかのような錯覚に襲われる。

私が高血圧なのは絶対あいつらのせいだ。


「私は化粧もせずに日中過ごして夜遅くまで残業して、
下手しなくとも仮眠室でちょっと寝てまた働く日々を送ってるのに！
ばーか、ばーかばーかばーかばーか！！」


今だって二徹目だ。
隈を隠せなくて、きれいな顔が三割減になっている。

元が良い分まだ見れる顔なのが救いだ。


「……なぁ、それを何故俺に言う？」


ようやく反応した男に、にんまりと笑みを浮かべた。


「だってあなた、聞き上手なんだもの」

「お前が一方的にしゃべってるだ」


確かにそうだが……。


「こんな醜態をさらせるのはあなたしかいないって意味よ」

「……」


美人看守として囚人に知られ、一部からはあがめられているような私が
実はこんな暴言吐きだなんて、知られたら困る……らしい。

囚人の活力気力がどーのこーのって。


これもあのくそ上司の言いつけだから、別に破ってもいいんだけど。
でも、それで減給でもされたらたまったもんじゃないわ。

そういうわけで愚痴を聞いてくれる人はほんの一握りなのだ。

言いつけられる前に私の本性――ってなんか悪女みたいだけど、
それを知っていた人たちだけ。

そしてそのうちの一人がこの男……でいいのよね。
八分雨アリス。

動揺したり感情が高ぶるとオネェ口調になる。


所詮看守と囚人の間柄でしかないけど、友人とか、
それに近い感情を抱いている。

だから見回りの時は、つい長話をしてしまうのだ。


「ハァ……帰ったらあの紙の山が私を待ってるんだわ……もうやだ。
けど徹夜はもっとやだ……というわけでもう行…………きたくない」


気合を入れて立ち上がった私だが、ついでにパソコンの費用記入を
任されたことを思い出し、ここから離れがたくなった。

〃→←〃

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