【殺戮の天使】前世持ちオタクの興奮

七十五話　不覚 ページ40

「……カギをかけ忘れていたか。
しかし、そうだとして、何故ここへ来たのだ？」


カツカツと靴を鳴らしながら、その眼で私を見据える神父。
グレイさん、ですね。

彼は私がここに来たことに、さほど驚いてはいないようだった。

まるで、私が来ることを知っていたよう。

そんなことあり得ないはずなのだが、
この人ならあり得ないこともないかもしれない。

つかみどころのないキャラだったと記憶している。


「ここに、君の求めるものはなかろう」


こうやって、全てを見透かしたように言ってくるのだ。
なんだかこの人の傍は、すべて悟られているようで居心地が悪い。

私の求めるものが果たして何なのは、神父は理解しているのだろうか。
理解していそうで怖い。


まるで、その目に私以上のものが見えているような人だ。


……ああ、そうか。

違う。そうじゃない。

そうなんだ。

その眼が見ているのは私じゃなかったんだ。


私″たち″なんだ。


それに気づいた途端、甘い香りが鼻孔をくすぐった。
気づくのが少し、遅かったらしい。


「しかし、ちょうどよい」


目の前がくらくらしだして、頭がふらふらしだす。
意識が遠のく感覚がする。

駄目だ。ここで気絶したら、もう会えなくなるかもしれない。

何もできずに殺されるかもしれない。
そうしたら、ここまで力を使ってくれた神様の思いが水の泡だ。

それを無にするわけにはいかないのだ。


それに、まだ何も聞けていない。
これだけは、聞いておきたいのに……。

どこへともなく伸ばした手は、しかし何もつかむことはなかった。


「くっ……」


傾く視界の中、最後に見えた景色は、
とてもきらびやかなステンドグラスだった。

冷たい床の感触を味わいながら、ゆっくり闇に沈んでいく。


諸突猛進じゃ通用しないこともあるのだ。
やはり、それなりの対策はしておくべきだった。

それを怠った私には、気絶すること以外何もできない。
自業自得でもある。

薄れる意識の中、最後に残った聴覚が声を拾う。


「しかし、まったくなぜ自ら……。
お前の考えていることは到底理解できないな、A・ビコリアム」


今の発言で確信する。
やはり、神父は私を知っている。しかしなぜ。

これは、もう一つ大事な用ができた。


何かが落ちるような、倒れるような音がした。
あれは、ザックが倒れる音だろうか。

そこまで考えたところで、完全に五感はシャットダウンした。

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