【殺戮の天使】前世持ちオタクの興奮

閑話　 ページ12

――病んだ瞳を病んだまま大切にしたい。

そんな欲望に突き動かされ、僕はカウンセラーになった。

病んだ瞳をそばに見続けられる、一番の職業だと思ったのだ。
その考えは当たり、僕は今まで多くの病んだ瞳を見てきた。

しかし、そんな目を見ていると、やはり思ってしまう。

――その目が欲しい。

幸い患者はみんな精神が不安定で、
自分で目を抉ったと言えばそれで周りは納得する。

患者が、僕が目を抉ったと言っても、
妄言の症状がみられるとカルテに記されて終わり。

言いくるめれば自ら目を抉ってほしいと言う患者まで現れた。

だから、目を手に入れるのにそこまで苦労はしなかった。


とある刑務所の看守にはばれたみたいだけど、
彼女とは利害が一致しているから問題はない。

満たされることはなかったが、それでも安心感は得られた。


が。
どうやらあの看守以外にも、注意すべき人物がいたようだ。

それに気づいたのはついさっき。
身近にいたのにそれまで気付かなかったことに驚きが隠せなかった。


事の始まりは数時間前。

抉り方が悪かったのか、患者の眼から血が止まらなかった。

刑務所の簡易な設備ではどうにもならず、あの看守に

『多量出血で死なれては断罪ができませんの。
それでは困るから、ちゃんと病院には連れてってくださいな』

と言われ、その患者を連れて病院へ行くことになったのだ。

僕を雇っている精神科がある、近くの総合病院だった。

そこで患者を治療した女性。

僕が言えることじゃないが、どこか安っぽい笑顔をした人間だった。
その上、ほかの人間なら妄言だと切り捨てるような患者の話を聞いて、
こういったのだった。

「冷静に行わないと、本当のことだったとしても誰も信じてくれない」
と。

あの発言と言い方は、僕が抉ったと確信しているようだった。


その後に「カウンセラーが抉るわけない」
なんて厭味ったらしく言うもんだから思わず鋭い視線を送ってしまったが、
彼女は相変わらず薄っぺらい笑みを張り付けているだけだった。

彼女といると居心地が悪いし、治療も終わったことだ。
一刻も早くここから出たかった僕は、やや強引に話を変える。


「治療も済んだことですし、我々はそろそろお暇します。
また彼が迷惑をかけるかもしれませんし」

「ええ、彼のカウンセリング、頑張ってくださいね」


……最後まで嫌味を忘れない女だ。
あの看守にどこか似ている。


僕は治療費を払うと、嫌がる患者を連れて病院を出た。

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