小指、出して (ページ14)

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side D.A

いのちゃんはいつも、めんどくさい落ち込み方をする。
あまり落ち込む方ではないからその反動なのか、放っとくしかなくなるぐらいめんどくさい落ち込み方。

でも、今日は違った。

「……ひか、どしたのあれ。」

「さぁ、俺が来たときからずっとああなんだよ。話しかけても、頷くか首振るぐらいしかしなくてさ。」

心配だよね、と視線を向ける先にはソファの上で体育座りをしたいのちゃん。
グレーのカーディガンは一部分だけ色が濃くなってて、睫毛と瞳はしっとりと濡れていた。

「いのちゃんが泣くってあんまりないから、どうすればいいのかわかんなくて。……大ちゃん、行ってあげて？」

「え？俺？」

「うん。いのちゃんも、大ちゃんならなんでも話すと思うし。」

「……うん、わかった。」

ひかの言葉に背中を押されて、いのちゃんの方へ近づく。ぼーっと焦点の合ってない目でうつむいてるいのちゃんが、ゆっくりと顔をあげた。

「いのちゃん、」

「……だい、ちゃん、」

少しかすれた声が耳に響いた瞬間、いのちゃんはじわりとまた瞳を潤ませた。

「ごめ、ソファ、おれ、じゃま、」

「違う、ソファじゃないよ。」

「……ふぇ、」

慌てて退こうとしたいのちゃんの肩に手を置いて制止し、少し顔を近づけて、瞳を覗き込んだ。

「そんな顔で、収録できるの？」

「っあ、ごめ、ごめんなさ、」

もっと瞳に涙をいっぱい溜めたいのちゃんがごめんなさいと繰り返す。謝ってばかりだから、誰かに怒られたのかもしれない。

「謝らなくていいから、どうしたの？」

いのちゃんの頬に手をそえて、親指でそっと撫でてあげる。10年前、いのちゃんによくやっていた、いのちゃんが落ち着く方法。

ついにぽろりと涙を零したいのちゃんが、痛いぐらいに強く俺の腰に抱きついて、お腹にぐーっと顔を埋めた。

「っいのちゃん？」

「っだいちゃ、ごめ、ごめんね、おれ、おれがわるくて、」

「ちょ、もう、なんで泣いてんの？」

「っ、やまだ、おれがやまだを、おこらせた、から、」