秋桜（by.ROOMS）6 (ページ26)

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……………

「………大学、訊いてもいい？」

地下鉄の車内。
座れなかった私たちは、ドア付近を陣取る。
ドア側に私を寄りかからせてくれて、向かい合う形で吊り革を持つ二宮くん。
電車が揺れる度、バッグのクマさんも揺れて、笑いそうになる顔を必死に保った。

「国立系の、教育学部」

「………教育？
サイトウ先生の意思を継いで？」

クスクス笑いながら、二宮くんが言う。

「………先生、まだ、ご退職されていないから」

「ジョーダン。
………いいんじゃない？
頑張んなよ。
俺が言うことじゃないかもしれないけど、さ」

二宮くんの視線が下がり、スニーカーを見てから、私に顔を向けた。

『二宮くんはどこを受けるの？』

話しの流れで、二宮くんから将来の話しを直接訊けるチャンスだったんだけど。
既に櫻井さんから少し話しを聞いているのに、白々しいし、
たぶん、二宮くんの口から切り出すまでは話題にしない方が賢明な気がしてやめた。

「私、受験頑張って、試験も頑張って、先生になるよ」

代わりに。
自分の決意表明をしっかりと二宮くんに伝える。

「ああ、そう」

二宮くんの声は笑っていたけれど、穏やかに私を見つめる眼は、誠実さに溢れている気がした。
私も、真っ直ぐに二宮くんに向き合う。

「………二宮くん。
私がもし、先生になったら、生徒にちゃんと教えて、伝えていくね」

「………何を？」

二宮くんが面白そうに、眼を輝かせながら私を見る。
ふぅ。と一拍おいて、もう一度、二宮くんを見る。

「自然が尊いことと、森を守る意味、を」

一拍おいて、二宮くんの眼が、驚愕で見開かれる。
その後、二宮くんは、唇をぎゅっと結んで、自分に言い聞かせるみたいに、小さく縦に首を振った。

………本当は、こんなことは伝えるべきじゃないかもしれないとも思った。
マイクパフォーマンスじゃあるまいし。
私が先生になってから、生徒の子供たちに何を伝えたいかなんて、今、人に話すことじゃない。

それでも。
二宮くんに伝えたかったのは、私たちには未来を進む力があるってこと。
私たちが、サトシさんのために、未来に持っていけるものが、たぶん、………絶対に、ある。