秋桜（by.ROOMS）6 (ページ22)

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「二宮くんも、同じ塾ですか？」

私の質問に、櫻井さんは首を振った。

「和は違う予備校。狙うのが、理系難関めのトコだから」

「難関………」

ふぅ、っと息を付いてから、笑った櫻井さんが言った。

「俺から………言っていいのかなぁ」

「？」

不思議に思って首を傾ける。
櫻井さんは、上を向いてまた、ふぅ、と息を吐いた。

「和、ね。医学部目指してんの」

「医………学、部」

「サトシくんの身体を、ね。治してあげたいみたい。自分で」

ゴクン、
思わず息を飲む。

二宮くんが、何度も再提出していた進路希望調査書。
二宮くんは、やりたいことと、行きたい場所、の交差する学校を模索していたんだと知る。

ーーー医学部があって、サトシさんと暮らせる場所の近くの大学。

学部を優先させるなら、先生は有名私大のある都内を勧める。
それだけの、設備も人脈も備わっているから。
でも、二宮くんはサトシさんのそばにいることを優先させたい、だから、先生の提案する大学とは違うとこを希望する。

………先生にはその意図するところが見えない。

「薬学とか医学とか………家柄、少し抵抗はあったみたいだけど。
結局、サトシくんより優先したいものはなかったみたい」

櫻井さんの微笑みが、サトシさんのそれと重なる。
優しくて、全てを受け入れるような、大きな………

「高橋さんは………教育学部？」

櫻井さんが、私の手の中にある赤本を見て言った。

「………はい」

決めて3日目。
高3にしては、遅過ぎるかもしれない、できたての、夢。
二宮くんに比べたら、グラグラ拠り所もないような動機付けだけど。
私が大切にしたい、夢。

「そっか………ぴったり」

櫻井さんの言葉が、金曜日のサトシさんと同じで。
私の心がまた、じんわりと暖かくなる。

「ありがとうございます。………頑張ります」

櫻井さんが、ふふっと笑ってくれる。

そのやりとりをしばらく見ていたお姉ちゃんが、ポン、と肩を叩く。

「そろそろ行こうっか。
も、よ、う、が、え！」

「お姉ちゃん………」

「あー、なんか、呼び止めちゃてごめんね？またね」

櫻井さんが、肩を竦めて言った。
恐縮して、頭を下げると、櫻井さんはお姉ちゃんと私にそれぞれ頭を下げて、レジに向かう。