秋桜（by.ROOMS）6 (ページ19)

今日:15 hit、昨日:8 hit、合計:72,845 hit

31.3 ページ19

「………うんっ、いいんじゃない？」

鏡越しにニッコリと笑ったお姉ちゃんが、私の肩に両手を乗せて頷いた。

「………」

鏡の中の私は、相変わらず、浮かない顔をしているけれど。
肩先でくるん、と揺れる髪は、なんだか元気に弾んで見えた。

「元々の明るい髪色が活かされていて、とてもお似合いですよ」

美容師さんが来て、後ろ髪を大きな手鏡で映しながら、そう言った。

「4800円頂戴します」

お姉ちゃんは、お金を支払いながら、ちゃっかり次の自分の予約を入れている。

私は、短くなった髪先を指で摘まんで、鼻先に持ってくる。
くるん、と丸まった髪は、顔の前に持ってくると、ちょうど鼻の真ん前くらいまでの長さ。
随分、切ったものだと、他人事のように思う。

「………ありがと」

自分の意思ではないとはいえ、4800円もの大金をポン、と出してくれたお姉ちゃんには御礼を言う。
お姉ちゃんは、ニンマリと笑った。

「さて、次は、本屋さん、かな」

「………本屋？」

有無を言わさぬ勢いで、通りをカツカツと歩き出すお姉ちゃんの後ろをついて行く。
迷いなく進むお姉ちゃんの後ろ姿は、声をかけるのも躊躇われる程、凛としている。

お姉ちゃんに連れて来られたのは、駅前の5階建ての本屋。
普段はいろんなお客さんで賑わうこの本屋も、さすがに、夜9時前ともなると閑散としていた。
仕事帰りらしいOLやサラリーマンの人、大学生らしい人がパラパラと、雑誌コーナーや、文庫本コーナーにいる他は、あまり人は見当たらない。

「さて。1冊、本を選んで？」

「………は？」

「ただし、雑誌やマンガ、文庫本はダメよ。
専門誌か、資格書か、………自己啓発くらいならアリかな」

「………え？」

「と、言うことで上に行きましょう」

お姉ちゃんに手をとられ、エスカレーターを指差される。

「ちょっ、ちょっ、………お姉ちゃんっ？」

トン、と弾むステップでエスカレーターに乗ったお姉ちゃんに促され、私もエスカレーターに乗る。

「急いで選んでね？帰ったら、部屋の模様替えが待っているんだから」

「何言って………」

「いーい？
自分のことが恥ずかしくてイヤになったときに、私が使う3つの方法があるの。
外見を変える、内面を変える手掛かりを得る、環境を変える、よ？
今日は1番わかりやすい方法でいこう」

「私、そんなの頼んでない」

「知ってる」

用意されていたセリフのように言われて、頭にかぁーっと血が上る。