ありきたりのラブ・ストーリー 2《Sato Shori》 (ページ5)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:16,445 hit

冬 3 ページ5

．

彼女が入院して一ヶ月が経とうとしていた。

通える日は毎日通った。

部活でなかなか行けないときは
積極的にLINEのやりとりもした。

俺が行くと大概本を読んでたり、雑誌を読んでたりする。

それで俺が元気？と聞くと
それなりに。って笑って言うんだ。

何も変わりなく外の景色と一緒に俺らも進んでいく。

こんな風に俺らこれからも一緒にいられるよな？と

誰か、何かに、つい確認してしまう。

12月に入った。

俺らの街は雪で真っ白になり、
部活も雪が解けない限りなかなか外では走れないから
わりと早く終わるようになってAに会う日が増えた。

なのにAは

体は前より細くなって、肌も前より一段と白くなって、
唇はよりいっそうピンクに色づいて見えた。

まるで、雪の中の桜、のよう。

君は、
いなくなる準備をしてるかのように
花が散ってくように

俺の前で笑う笑顔がだんだんと透けて見えた。

俺が、元気？と尋ねることもできないくらい
弱っていく君。

なのに俺が行くと、私は元気だよって笑った。

もう、笑わなくていい。何度も言おうとしたけど
そんなこと言えなかった。

君の笑顔を見れないことを一番怖がってるのは、俺だった。

12月の真ん中のある日。

雪のため部活が休みになり、俺は白く息を染めながらAの病室に足早に行った。

「A…、来たよ？」

もう、Aは俺が来ても起きていることもなくなってきていた。

俺が少し大きな声で名前を呼ぶと

何かに引っ張られるようにふっと目を開けて

ふふふって笑うんだ。

「ごめんね、寝てた」

俺はか細い彼女の声に首を振るしかなかった。

「あのさ、、約束してたでしょ？どこか連れてくって。」

少し言いにくそうにしながら
1つ1つ言葉にする。

「うん…そうだね
俺はいつでもいいよ。」

「私、クリスマスの日がいいなって」

クリスマスまではあと5日ほど。

終業式の日だ。

「じゃあ午後からでいい？迎えに来るよ。」

Aは嬉しそうに笑った。

ほんとに五日後、君を連れ出していいのかなんて
俺は分からなかったし、自信もなかった。

でも、俺もAを連れていきたい場所がある

恋人ができたら行きたかった。

ドラマでも映画でも小説でも

ありきたりだって分かってるけど

それでも俺は君とその景色を見たいよ。

「じゃあ、またね」

俺らはまた、1日を消費した。