眠れぬ夜は【ほのぼの】 ページ42
寒い。
頭まで布団を被り身体を丸めているのにどこかが冷たく感じる。
これほど寒いと思ったのはいつぶりだろうか。まるで、極寒の地に立たされているような気分だ。
ひたすらに寒さしか感じられない。
身体は温かい。手先や爪先にかけて血は巡っている。それなのに、どこかが冷え切ったままで満たされない。
寒い。寒い。寒い。
脳内で同じ言葉しか繰り返すことができない。
得体の知れないモノに追われている恐怖に支配されている気さえする。
誰か。誰か。誰か。
声が出ない。それでも、ひたすら助けを求める。
寒い。寒い。寒い。
怖い。怖い。怖い。
誰か。誰か。誰か。
(たすけて)
「A、どうした?」
頭上から私を呼ぶ声が聞こえ、ゆっくりと布団から顔を出す。
私のすぐ横で五条先生が心配そうこちらを見つめている。
夜でも星のように輝く碧眼がすぐ近くに映る。
「先生。ずっと……ずっと寒いと感じるんです。身体は温かいのにどこかが冷たくて……それのせいで眠れないんです」
彼は私との距離を詰めると背中に腕を回し優しくさすった。
「これでもう寒くないだろう?」
それは普段から想像つかないほど落ち着きのある声だった。
その言葉を聞き私は懐かしい記憶を思い出した。
まだ私が幼稚園に通うくらいの頃だ。寒さが厳しい季節になると一人で寝ることができなかった。
そんな時、母は私の横で本を読んだり、背中をポンポン叩いては子守唄を歌ってくれた。
(あぁ、そうか……)
母の優しさと温もり、そして愛が私の心を満たしてくれていたのか。だから、どんなに寒くても平気だったのか。
そしてその温もりを先生から感じる。
先程の寒気が嘘のように消え心が満たされていくのが分かる。
もう怖くない。
張り詰めた糸が緩むように私の瞼がゆっくり落ちていく。
まどろみの中で最後に見たものは、慈愛に満ちた先生の顔だった。
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作者名:弓兵 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/archer0/
作成日時:2020年10月14日 23時