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すっかり日が落ちてしまい暗闇が世界を支配する。
博雅は光の届かない森の中をどことなく不安そうな顔をして歩いていた。
そんな彼の様子を見た晴明は面白いものをみるような目で彼をみる。
「彼の有名な博雅がよもや怯えておるのか?」
からかうように言う晴明の言葉に博雅はばつが悪そうにそっぽを向く。
「臆病で悪いか。
大天狗殿のことを言っているのであればあれは…その…
彼の人の笛の音があまりにも、美しくてだな…
俺は管弦に目がなくつい…」
自分自身を隠すことなく臆病だと言い切る人間が、変わり者と言われることをわかっていて好きなことを好きだという人間がここにいた。
そして何より
"妖を人と言った"
博雅にとって人も妖も関係なく、思いが通じさえすれば友だった。
そう思えるのはきっと彼が誰よりも素直で誰よりも純粋な心を持ちそして何よりも人を対等に見ているからだ。
困った者がいるのなら彼はどんな人物でも手を差し伸べるだろう。
「そなたは…
よい男だのう」
こぼされた言葉に困惑する博雅だったが晴明はそれ以上なにも言わずに先へと進んだ。
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鬼退治はあっという間に終わった。
一度きりの会瀬を忘れられず、必ず迎えにいくと誓った男を信じそのまま朽ちたあわれな女の霊であった。
「晴明よ。
あの人はどんな思いで待っていたのであろうな…」
博雅はぼうっと前をみながら晴明に問う。
「さあな。
俺は人のそういう気持ちはわからん。」
「そうか…」
お互いにそれ以上はなにも言わずに歩く。
晴明の屋敷のそばにある橋にたどり着いたとき博雅がおもむろに空を見上げ懐に手をいれる。
そうして笛を取り出すと口元にあてがいゆっくりと息を吹き込んだ。
美しい音色だった。
何とも言えないほどに美しいその音に晴明は心を何かに鷲掴みにされたような感覚になる。
欲しいと思った。
そして同時にこれは不味いと思った。
博雅はいつか陰の世界に連れていかれてしまう。
晴明は焦る気持ちに蓋をして決意した。
彼の側で彼を守ってくれるそんな存在を作ろうと。
元々陰の世界にいた式神はリスクがある。
それならば彼がいつも持ち歩けるものに己の魂を込めればよい。
そうして彼はたった1人の人間を守るための刀を産み出した。
かつて自分が手掛けた草薙剣や天叢雲剣よりももっと強い力を持つそんな刀を。
その刀の名は青龍。
青い刀身が美しく輝く最高の刀であった。
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吹雪(プロフ) - コメント感謝しますm(__)m返信、更新ともに遅れて申し訳ないです。これからもよろしくお願いします! (2018年10月15日 10時) (レス) id: 4e2a82a17c (このIDを非表示/違反報告)
泉 - とても面白いです!更新楽しみにしています(^O^) (2018年10月8日 15時) (レス) id: 43f343ee39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:吹雪 燐 | 作成日時:2018年10月2日 20時