38.余裕、行方不明 ページ38
Aに頼まれて、稽古をつけていた。
竹刀同士がぶつかる音、足音、息遣い。それ以外は静寂に包まれた道場は心地が良い。
ぽたり、と汗が落ちる。季節は秋に差し掛かろうとしているにも関わらず、まだ暑さは停滞しているように思えた。
静けさの中に、携帯の着信音が響いた。
「……Aのか」
「っ、そうですね」
はあ、と息をついて、どちらともなく竹刀を下ろす。
雑音をきっかけに、もう長い時間休憩を取っていなかったことを思い出す。
「急ぎの用事か?」
「……や、これはたぶん、」
Aが何処か言いにくそうに携帯を開く。
それを当然のように覗き込んで。
「…………いつの間に草間の野郎と連絡先交換きたんでィ」
「前に夕食をご一緒したときですよ…これからもデートに誘いたいので、連絡先を教えて頂けませんかって」
「……デート。」
気づけば復唱していた。
おめでたい頭の男は、あいつにとっての邪魔者の俺に見せた顔とは打って変わって、真摯な文面を送ってきていた。
Aはそれを読んで渋い顔を見せる。
「…なんでィその顔は」
「ん〜…非番の日にお出かけしませんか、ってお誘いされてるんですけど、どうお返事するか迷ってるんです」
「またかィ」
「優柔不断なんです、私」
困ったように頬を掻くAを横目に、ぽつりと訊く。
「何がそんなに不満なんでィ」
「不満っていうか、草間さんと2人になるの、どうしても照れくさいっていうか」
「は、」
恐る恐る、Aの顔を見た。
……なんだ、その顔。
眉を下げて、困ったように、けれど何処か楽しみにもしているように、緩んだ口角。
………………なんだ、それ。
「……な、」
「今返事するのやめます。早く稽古再開しましょ」
「ちょ、」
すたすたと竹刀を持って道場の中心に向かうAの背中を見て、あのときの顔を思い出す。
────草間がリムジンで迎えに来た時の、あの不安と期待が入り交じった表情を。
(………………あれ、)
(もしかしてこれ、やべェんじゃね)
密かに焦燥感に駆られた。
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乙愛 - 草間さんのセリフにグッときたがワイは負けん…はっ!総悟!違う私は一筋じゃぁ (2018年12月19日 18時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - 乙愛さん» コメントありがとうございます。良い意味でキュッとして頂けたら幸いです。物語が徐々に動き始めてきましたので、どうか今後も見守ってくれたら嬉しいです。 (2018年12月10日 22時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - なんか、心臓キュッってなりました。( ・∇・)きゅーん (2018年12月7日 22時) (レス) id: 89a184ea87 (このIDを非表示/違反報告)
木ノ嶋(プロフ) - アルハさん» 本当に嬉しいお言葉、ありがとうございます。受験生なんですね…この作品で、少しでもアルハ様の応援が出来たらいいなと思っております。ありがとうございました。 (2018年11月28日 7時) (レス) id: 24579aa2d7 (このIDを非表示/違反報告)
アルハ(プロフ) - 受験生の身でありながらついぶっ通しで読んでしまいました・・・笑上から下までタイプですありがとうございます。これからも応援してます! (2018年11月27日 16時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年8月17日 23時