元ヤンの幼なじみが普通とヤンキーを両立しようとするので見ている私は気が気ではない。 (ページ13)

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────Side.伍代

「あっはは！何そのマスク！」

「うるせえよ、つか何でお前までここにいんだ。……まあいいや、伍代、借りは返すぜ」

「いつまでも人の車に乗ってんじゃねえぞゴラァ！」

「コノヤロウ！」

今にも笑い転げそうなほど腹を抱えて笑うAを尻目に難破は車から飛び降りる。その勢いを殺さぬまま1人の男を沈めた。

「テメェ……！ふざけたマスクしやがって！」

「それには同感！」

ヒュンと風を切るような音の刹那、軽々とした身のこなしで男に飛び蹴りを食らわせたのはさっきまで会話も出来ないほど抱腹絶倒していたAだった。セレブ風サングラスを外し、難破に加勢する。

────それは正しく圧巻の景色だった。難破が規格外に強いことは既に知っていたが、そこにAが重なるともはや映画を見ているようでさえあった。一切目を合わさないのに、互いにどこにいて、どう動くのかをわかっている。

圧倒的パワータイプの難破が反応に遅れたところを、身軽でスピードタイプのAが反応し拳を打つ。スピードはあるものの女であるというハンデのせいでパワーが足りないところを難破が補い、地面へと沈める。

俺は以前、難破という圧倒的な存在を幼なじみを持つAは苦労してるだろうと思っていた。けれど今目の前に広がっているのは────これこそが、阿吽の呼吸。苦労どころか、難破の傍こそが自分の居場所であるかのような動き。侮っていた、見くびっていた。ただの幼なじみと言うにはあまりに息が合いすぎて、お互いのことを理解(わか)りすぎている。

瞬く間に男2人は完封され、地面へと転がっていた。難破は「じゃ」と片手を挙げ、ロクに話すこともなくその場から走り去る。

「あっはは、あいつウル〇ラマンかよ」

3分しか地上に居られねえのかな、と呟きながらAは俺の前にしゃがみこむ。いつもより口が悪い。喧嘩のスイッチが入ったままなのか、瞳の奥がまだぎらついているように見えた。

「伍代、大丈夫？すげーボロボロじゃん。いつもは救急セット持ち歩いてんだけどさ、今日は持ってないから手当てしてあげらんないんだよね。ウサちゃんの絆創膏1枚だけ持ってたんだけど貼ったげようか」

そう話しながら徐々にスイッチが元に戻っていくのを感じた。俺を覗き込んで笑うAの姿に、さっきの喧嘩の様子が重なる。ちかちかと火花が散る。まるで花火を背負っているかのようなAがあまりに眩しくて目を細めた。