【銀魂】いいですか、沖田さん。

60.乙女心は抑えが効かない ページ10

ズキズキと、身体が痛い。

胸が痛い。

息が出来ない。苦しい。…苦しい。



(……あの、黄川さんは)

(どういうことを、考えていたんだろう)



はっ、はっ、と息を整える。

走って逃げてきたから、全身が酸素を求めていた。



(……嫌だ)



こんな風に苦しくなってしまう自分も、

…あんな顔を私に見せてくる、黄川さんも。



(駄目だ、駄目だ駄目だ)



逃げ込むように、路地裏に飛び込んだ。

狭くて暗い中、壁に背をついてずるずるとその場に座り込む。



(……熱い)



じんと熱いのは、走ったせいだけではない。



「……、」



息が、しにくい。

熱い。

目頭が、熱い。



(……何を、今更)



それを怖がったのは自分だろう。

それを拒んだのは自分だろう。

気付かぬふりをしたのは、自分自身だ。



(……傷つく資格なんて、ない)



それなのに、湧き上がる感情はもはや抑えられはしない。

今までが平和だった、今までが何も無かった。

何も変わらなかった、変えなかった。

変えずにいてくれたのは、他でもない沖田さんだった。



「……はあ、あーあ」



いつまでも子供のままではいられなかった。

変わりたいと、願うようになってしまった。

自分勝手な私の心は、散々変化を恐れておいて、いざこうなると、変化を求めるようになった。



(……最低だ)



最低だ。

私は本当に、最低だ。



「……Aさん」



びくり、と名を呼ぶ声に身体を震わせる。

慌てて目元を擦って、声の主を見上げた。



「なんで、」



ばさり、とジャケットを頭から被せられた。

ふわりと漂うのは、草間さんの匂い。



「……やめてください、Aさん」



暗い視界の中、草間さんがしゃがみこむ音が聴こえる。



「そんな顔、僕に見せないでください」



被せられたジャケットを、退かすことが出来なかった。



「僕は今不機嫌なんです」



喧騒が、離れた表通りから聴こえる中、静かな草間さんの声だけが響く。



「今の僕は、嫉妬で狂いそうなんです」

「草間、さん」

「貴女にそんな顔をさせられるのは僕じゃない」

「…くさまさん」

「貴女をそんな顔に出来るのは、何処を探しても、あの男だけなんです」

「…っ、くさ、ま、さん」

「永遠に、気づかなければ良かったのに。」



柔らかな温もりに包まれて、抱きしめられているのだと気づいた。



「貴女をそんな顔にさせるのが、僕だったらどれ程良かったか」



その背中に腕を回すことは私には出来ない。

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