78.人生において希少価値の逸材 ページ28
「…まずは、これ。返すのが遅くなってすみません」
「いえいえとんでもない。貴女が謝ることなんてひとつもないのに」
ずっと渡せないまま紙袋の中に仕舞われていたジャケットが、ようやく持ち主の元へ帰った。
ひとつ、肩の荷が下りる。
「それから、これはおやつです」
「ありがとうございます。中を開けても?」
「どうぞ」
また渡した紙袋を、嬉しそうに開ける草間さんをドキドキしながら見つめる。
人に何か贈り物をするのは、いつだって慣れないし苦手だ。
何が喜んでくれるのか、考えても全然わからないから。
「……抹茶のバウムクーヘンですか」
「そうです。草間さんが、甘すぎるものは苦手だと仰っていたので」
目をぱちくりさせて、それから綻ぶように笑う草間さんはとても素敵だった。
疲れなんて見せない、想像させない。そんなくらいの、笑みだった。
「嬉しいものですね。ありがとうございます、Aさん。宜しければ一緒に食べませんか?」
「…草間さんが良いのなら」
「僕が誘っているんだから、駄目なはずがないでしょう。何か飲み物を入れて来ますよ。コーヒーか紅茶、どちらがいいですか?」
「じゃあ、紅茶で」
「わかりました。少しの間、そこで待っていてくださいね」
そのまま草間さんは、キッチンらしき所へと姿を消した。
カチャリカチャリ、と食器同士がぶつかる音を聞きながら、部屋をぐるりと見回す。
やっぱりどこも綺麗で、見苦しさは感じられない。
(……というかそもそも、カッコ悪い姿の草間さんを想像できないんだよなあ。)
(沖田さんのカッコ悪い姿なら想像出来るし、実際何度も見てるんだけれども。)
デキる男は違うというのか。
恋だとか愛だとか、そんなもの云々より、前提として草間友彦は凄い人なのでは、と思う。
「……こんな良い人、他に居ないんだろうな」
「そうです。こんなところで逃してる場合じゃありませんよ?」
ぽつり、と声が出ていたことを、返事が聞こえてから初めて気づいた。
恥ずかし、という気持ち半分、聞かれたというドキ、という気持ち半分が共存している。
「自分で言うのはどうかと思いますが、それにしたって僕は、本当に良い男だと思いますよ。そこらじゃ絶対に出会えません」
「……私も、そう思います」
「それなのに、貴女は僕を選んではくれないんですもんね」
世の中難しいものです、と漏らす草間さんは苦笑い。
返事に困った。
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乙愛 - 吉沢亮さん、良すぎですよね……。ほんと、沖田さん…。現在1番好きな役者さんです。 (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - お疲れ様でした!最後の写真みてみたいです…/// (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
ののこ(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしていました。終わってしまって寂しさもありますが、素敵な小説に出会えて良かったです。ありがとうございました! (2019年2月10日 1時) (レス) id: c2027c837f (このIDを非表示/違反報告)
sachoco(プロフ) - とても素敵な作品に出会えて幸せでした。ハッピーエンドでとても嬉しかったですし、完結した寂しさの反動も大きく、それ程この小説にハマっていたのだと思います。本当にお疲れ様でした!(実写版沖田さん…本当に完璧と言わざるを得ない程素敵だと私も思いました!) (2019年2月8日 19時) (レス) id: 6ffe0b9ea7 (このIDを非表示/違反報告)
春先未(プロフ) - お疲れ様でした…本当に面白く更新を楽しみにしていた作品だったので終わってしまい寂しさ半分、素敵な作品と出会えたという幸せな気持ち半分です。とても素敵な作品をありがとうございましたm(_ _)m (2019年2月8日 18時) (レス) id: 948ea5509c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年12月14日 8時