65.体温が混ざり合う ページ15
ふと、前方に見知った人影が見えた。
あれは。
(……黄川、さん?)
彼女の姿を目に入れた途端、さっと全身の血が冷えたような気がして、それから沖田さんの手首を掴んでいるのを見られるのが怖くて、ぱっとその手を離してしまう。
黄川さんはこちらを向いている訳では無い。
お買い物中だろうか、いくつかの紙袋を手に提げて、まだきょろきょろとお店を見て回っている。
どっどっと心臓が嫌な音をたてていて、そんな自分にも嫌になる。
────そのとき、だった。
「……離すんじゃねェよ、手」
する、と私の手に別の体温が触れる。
びくり、と身体を震わせて、自身の手に目を向けた。
「ちょ、お、沖田さん」
私が沖田さんの手首を掴んで前を歩いていたのとは訳が違う。
私の手は紛れもなく沖田さんの手に包まれていたし、なんなら指同士が絡み合う、いわゆるアレ。
「な、にして、るんですかっ」
かああっと顔が熱くなるのを感じて、ぶんぶんと手を振り払おうとするも、酔っ払いの癖にその力はしっかり強い。
誰かに見られたらどうするんですかっ、なんて言っても、聞き入れてくれるような状態じゃない。
(黄川さんに、見られたら……っ)
いろんな意味のドキドキが混じりあって、胸が痛い。
どうか誰にも見つからなければ良い。
恋人繋ぎをされていることも、私が沖田さんを想っていることも。
さっさとこの場から離れたくて、恥ずかしくて、けれど手は繋がれたままで。
せめて早く立ち去ろうと、足早にその場を後にした。
『……離すんじゃねェよ、手』
────ふと、囁かれた言葉を思い出す。
さっきは、突然の沖田さんの体温にどぎまぎして、どうにか黄川さんに見つからないようにと必死だったけれど。
少し落ち着いて、屯所も近くなってきて、ほっと一息ついたそんなとき、思い出してしまった。
静かで、低くて、アルコールのせいで少し熱を持った声。
今更、ぶわわっと耳が熱くなる。
(…何を、ばかなことを)
今までの私なら、気にしてないふりだって出来たのに。
その行為を意識しないことが、出来たのに。
(……黄川さんのせいだ)
彼女が、あんな目で沖田さんを見るから。
私の中の何かがかちりと音をたてて外れてしまった。
今まで通りのふりなんか、もう出来ない。
(……悔しい)
一向に振り払うことが出来ない私より大きな手に、あとどれくらいドキドキしたらいいのだろう。
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乙愛 - 吉沢亮さん、良すぎですよね……。ほんと、沖田さん…。現在1番好きな役者さんです。 (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - お疲れ様でした!最後の写真みてみたいです…/// (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
ののこ(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしていました。終わってしまって寂しさもありますが、素敵な小説に出会えて良かったです。ありがとうございました! (2019年2月10日 1時) (レス) id: c2027c837f (このIDを非表示/違反報告)
sachoco(プロフ) - とても素敵な作品に出会えて幸せでした。ハッピーエンドでとても嬉しかったですし、完結した寂しさの反動も大きく、それ程この小説にハマっていたのだと思います。本当にお疲れ様でした!(実写版沖田さん…本当に完璧と言わざるを得ない程素敵だと私も思いました!) (2019年2月8日 19時) (レス) id: 6ffe0b9ea7 (このIDを非表示/違反報告)
春先未(プロフ) - お疲れ様でした…本当に面白く更新を楽しみにしていた作品だったので終わってしまい寂しさ半分、素敵な作品と出会えたという幸せな気持ち半分です。とても素敵な作品をありがとうございましたm(_ _)m (2019年2月8日 18時) (レス) id: 948ea5509c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年12月14日 8時