minus ページ12
自分には記憶がなかった。
いや、ないというわけではない。
ただ、自分が何者なのかわからなかった。
櫻井翔という名前だけは覚えている。
だけれども、自分が育ったのは櫻井家でなければ普通の家庭ですらない、あの趣味の悪い屋敷だ。
僕は売られたのだろうか。
家庭教師の授業を受けながら幼少期はそんなことを考えていた。普通の子供は学校というところに通うらしい。そして、同じような沢山の子供と友達になるらしい。
一度どうして外へ出してもらえないのか聞いたことがある。
翔は病弱だからだよ、外は汚い空気で一杯だからね。
たしかそんな風に宥められたように思う。それから、
疑問を持つことは許さない。 そうハッキリと告げられたことは覚えている。
目の奥の冷えた真意がそれきり自分を黙らせて、ここではこの人が法なのだと理解した。そうでなければ、自分は生きていけないのだと。
だからそれ以上疑問を持つのはやめた。15になる頃には地下室に自分と同じかそれ以下の少年たちが裸で繋がれていて、惨たらしいことが毎晩行われていることに気づいたが、それすらも黙認した。疑問を持てば、明日そこにいるのは自分のような気がした。家畜以下の扱いを受けるのは嫌だった。自分は違う。この家の法の、お気に入りなのだと。その頃には十二分に自覚していた。
いつか外に出るその時まで、耐え凌げばいい話だ。
そんな日がくることはあるのだろうか。
それはまだ、この時の自分には知る由もないこと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Mia.(プロフ) - きよさん» きよさん、コメントありがとうございます。sygrの山キャンプがあまりにも尊く…、つい書きました。久しぶりの執筆でしたので稚拙なものとなりましたが、あたたかいお言葉本当に嬉しかったです。励みになりました。またいつか更新した際はどうぞ宜しくお願いします。 (2020年9月23日 10時) (
レス) id: 0519a4140b (このIDを非表示/違反報告)
きよ(プロフ) - Mia.さん、山コンビのキャンプ尊いです 。翔くんもキャンプにはまりそうでしたよね。でもやっぱり、二人だから楽しかったし、やりたくなったんですよね！ドンピシャなお話しありがとうございました。 (2020年9月20日 22時) (レス) id: ae2dee5c90 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Mia. | 作成日時：2019年1月23日 18時
