004/鬼が出る ページ4
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遅くなってしまった・・・・・・
洩れた言葉はそう。
Aは、雪が降り止み紺に染まり始めた空と夕焼けに溶け込んだ山を見ている。炭売りの他にも幾つか手伝いをしていたら想定以上に遅くなってしまったらしい。
急いで家路につき歩き始めようとした時、Aの後ろから声が掛かった。
「こらA、お前山に帰るつもりか」
少し荒れた声にAが振り向くと、知り合いのお爺さん__三郎爺さんとAが呼ぶ三郎が、家から身を乗り出していた。
「危ねえからやめろ」
その表情は心配の色で塗られていて。
「私は鼻が利くから平気だよ」
猪や熊など野生動物の心配をされているのだと思ったAはその提案を断った。だが、三郎は表情を渋くしてAを自分の家に招く。
「うちに泊めてやる。来い、戻れ」
「でも・・・」
「いいから来い!!」
今度はAの言葉に被せるように三郎は強く遮る。
そうしてひと息つき、Aを見てこう言った。
「鬼が出るぞ」
結局、Aは三郎の親切で今晩は泊めてもらうことになった。三郎の勢いと真剣さに押し負けたと言っても間違いでは無いだろう。
Aに晩食を用意した三郎は傘を畳みながら鬼について話し出した。
「昔から人喰い鬼は日が暮れるとうろつき出す。だから夜歩き回るもんじゃねぇ。食ったら寝ろ、明日早起きして帰りゃいい」
少し乱暴な言葉ではあるけれど、自分を気遣ってくれていると分かったAは大人しく箸を進める事にした。
晩食を完食し布団についたAはそこでふと疑問に思ったことを三郎に聞いてみる。
「・・・鬼は家の中には入ってこないの?」
「いや。入ってくる」
「じゃあ・・・みんな鬼に・・・喰われちゃう」
うとうとと微睡み始めたAを背に、三郎は煙草を蒸しながら答えてくれる。
「鬼狩り様が鬼を斬ってくれるんだよ。昔から・・・」
その言葉の後は耐えきれずAは瞼を下ろした。閉じた瞼の奥でAは三郎に語りかけていた。
「(三郎爺さん、家族を亡くして独り暮らしだから寂しいんだろうな。今度、弟たちを連れてくるから。怖がらなくても鬼なんかいないよ。大丈夫。)」
ああ、でもそういえば。
Aは意識が暗闇へと沈み落ちる前に自分が幼かった頃の昔を思い出した。
「(うちの婆ちゃんも死ぬ前に同じこと言ってたな・・・・・・)」
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廣岡唯 - 面白い続きが観たい…頑張れよ (2022年11月5日 12時) (レス) @page5 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rin華 | 作成日時:2022年8月9日 13時