002/暖かな家族 ページ2
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〈竈門A立志編〉
「A」
綺麗な女性が前を行く少女に優しく声を掛ける。
進もうとしていた少女は、その女性を振り返った。その少女の瞳は美しい灼眼であった。
少女の名を竈門Aという。
「顔が真っ黒じゃないの。こっちにおいで」
女性は手でAを招いた。Aは言われた通りに女性に寄って屈む。
女性は炭で薄黒く汚れたAの頬を優しく拭う。
「雪が降って危ないから行かなくてもいいんだよ」
「正月になったらみんなに腹いっぱい食べさせてやりたいし、少しでも炭を売ってくるよ」
その女性とAは家族であった。
炭を焼いて売ることを仕事にする家族。
雪の中山を下り炭売りに行くAを心配する母__葵枝。柔く断って家族の為を思う娘のA。
Aの心は優しく、家族に贅沢をさせてやりたい。その為に、山の麓の町で炭を売りに行くらしかった。
家族を想うその背中は強い。
「・・・・・・ありがとう」
癸枝は眉を少し下げて嬉しそうに微笑った。
送り出そうとした葵枝に、小さな子供達が声をあげた。
「姉ちゃん今日も町に行くの?」
「私も行く!」
「えーーーっ!?」
上から順に、竈門茂、竈門花子、竈門竹雄。
小さな子供はAの妹、弟達だ。Aは竈門家の長女であり、弟や妹にとても好かれていた。
「だめよ。Aみたいに早く歩けないでしょう」
「母ちゃあん」
「だめ」
ついていく!
と葵枝の服の裾を引いて強請る花子と茂。母である葵枝は子供たちを宥める。
「今日は荷車を引いて行かないから、乗せてもらって休んだりできないのよ」
言って、葵枝は白い息を吐いた。
茂と花子は今度はAの方に駆ける。
ついていきたいと瞳で訴える花子。Aに抱き着く茂。
Aはそんな子犬の様な茂と花子の頭を優しく撫でて、竹雄の方を向いた。
「竹雄、できる範囲で構わないから少し木を切っといてくれ」
「そりゃあやるけどさあ。一緒にやると思ってたのにさあ」
花子や茂の様に止めたりはしないものの、竹雄は不満げに唇を尖らせて。どうやらみんな、本当にAが大好きで堪らないようだった。
暫くして、宥められ落ち着くと、みんなで手を振ってAを見送った。Aも手を振り返す。
Aは白く深い雪を、ザクザクと踏みしめて前に進む。呼吸をする度に、白い息が漏れた。
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廣岡唯 - 面白い続きが観たい…頑張れよ (2022年11月5日 12時) (レス) @page5 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rin華 | 作成日時:2022年8月9日 13時