【あんスタ】愛を零してマルグリット【合作短編集】 (ページ8)

今日:2 hit、昨日:15 hit、合計:32,176 hit

▽ ページ8

・

「――――！」

鳥の羽音を思わせるような、ばさばさと耳を賑わせる音が不快だ。
のどかな草原に振って降りた稲妻のような、自分の中に築かれていた平穏な空間を壊す音の主に一言文句でも言ってやろうと怠い体を起こす。音の正体を探そうとあたりを見回すまでもなく、目の前に白い何かがひらりと舞い落ちてくるものだから自然と彼女と目が合った。

「り、凛月先輩……！それ、私の――」

「うん、そうだと思った」

小走りに駆け寄ってくる彼女は、肩まで垂らしたセミロングをゆらゆらと揺らしている。もう「末っ子」は卒業する頃だというのに、腕に嵌められた生徒会の腕章がまだ少し大きく見える気がするのは気のせいか。同じ生徒会の先輩にあたる幼馴染とよく仕事をしているせいでかそれこそ最初は幼馴染に変な虫がついたと煙たがっていた時期もあったが、今では妹ができたかのように思えるほど、そんな彼女を微笑ましく見つめられていた、筈なのだけれど。

ありがとうございます、と書類を受け取ろうと近付いた手を思わず払いのける。
何故だかは分からない。へにゃりと笑った、目の前にある自分という存在を全く信頼しきっているかのような緩んだ表情。それが無性に腹立たしく思えて、捻くれた自分の行動はこれもまた子どものようなわがままでしかなくて。
それでも驚くわけでもなく、寧ろきょとんと小首を傾げているものだから尚のこと。
むくむくと感情が渦巻いて、頭の中に重たい靄が蓄積されていく。

「……あんたって、ほんとうに、馬鹿」

寝転んだ自分を見下ろすように垂れているリボンを力任せに掴んで起き上がろうとした。耐えられるわけのない彼女は自分の方にぐらりと傾いて、ぎゅうっと目を瞑る。ごちん、と間抜けな音が静かな中庭に響いて、二人揃って悶絶。

｢い……ったぁ～、もう先輩、寝ぼけてるんですか？｣

さすった額はほんのりと赤らんで、涙目の彼女は緩くこちらを睨んだ。かと思えば自分に跨る体勢を取っているのに気づいて、睨むのもそこそこに慌てて退く。あぁほら、そんなに赤くなって。

｢初心だねぇ、A｣

｢なっ、初心って｣

｢ねぇ、俺は寝惚けてなんかないんだけど｣

じり、と詰めよればばらまいたプリントがくしゃりと音を立てる。こくり、彼女の喉が上下にゆっくりと動いたのを確認して、牙を立てる場所をじっくりと検討して。

｢今の、わざとだって言ったらあんたはどう思う？｣