【あんスタ】愛を零してマルグリット【合作短編集】 (ページ23)

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言い出した張本人の方を見やると、何事もなかったかのようにたまごサンドを頬張っている。それはまた美味しそうに。つい数十秒前に口にした言葉がなかったかのように平然としていた。
　ならば……軽く言うとするならば、

「……冗談ですよね？」
「私はいたって真面目ですよ」

　望みはいとも容易く砕け散った。砕けなければなかったでショックを受けそうだったけど。
　しかし真面目ですよ、という割に目の前の青年はどこか面白そうに笑みを浮かべている。冗談だとしか思えないくらいには。
　それとも私がそういったことに関して人一倍潔癖なのだろうか。ただの友人にやたら軽い気持ちで交際を申し込むなんてことは珍しくないのだろうか。いや絶対にそんなことない。ないったらないのだ、いや知らないけど。
　私は少しため息をついて、また口を開いた。

「そんな軽く言うことではないと思いますけど……」
「たまにはいいじゃないですか、私と貴女の仲でしょう？」
「どんな仲ですか」
「いやですねぇAさん。こんなうららかな日差しが暖かいの春の日に、一緒にモーニングを食べるくらいには仲良いじゃないですか」
「むしろその程度じゃないですか……」

　かつては彼の母校・夢ノ咲学院で「三奇人」と謳われたことは聞いたことがある。天才と変人は紙一重だというくらいだから、この演劇の天才が変人なのは別におかしなことではない。おかしくないけどこの思考回路は天才でない私にはない。なぜどうとも思っていないであろう私なんかにそんな台詞を吐けるのだろう。頭を抱えたくなる。相手も同じように「ただの友人」と思っているとは限らないのに。この私のように。
　じっと見つめていると、彼は首を傾げながら唸る。

「うーん、手強いですね……でも私たち結構仲が良い方じゃないですか」
「そう……なんですか？」
「そうですよ！それなら多分恋人としても上手くやっていけそうじゃないですか？」
「そうとは限らないと思いますよ……」
「ですので、駆け落ちしましょう」
「どこが『ですので』なんですか！」

　反射的に少し大きな声が出てしまい、慌てて腰を浮かせて周りをキョロキョロと見渡す。客は私たちの他に数組でどこもこの席から少し離れていたか、あまり注目を浴びずに済んだようだ。ほっと胸を撫でて、原因に相対しなおす。