意外の話 ページ37
うつらうつらと
船を漕いでいたことに気づく。
手元で読んでいたつもりの本は、
あまりにもつまらなくて、意識を手放していたようだ。
私は四角い窓から、景色を眺めた。
夕方の赤い光が、空を照らしていた。
あの夜から、もう2週間が経過している。
既に新学期が始まり、
普段のような学園生活が戻っていた。
我々が暗殺者が捕まったことで、
エーミールは無事、安全な生活を取り戻したのだ。
そしてゾムの雇用主を特定することにも成功し、
エーミールの父親にその情報を提供することで、
暗殺の首謀者を追放することもできた。
乗じて自警団の名声も強度を増す。
学園の中でも「我々自警団」の名前の知名度は高まっていた。
あっぱれあっぱれ。
これぞ完璧、流石我々自警団。
賞賛するしかない結果となった────
そんな中、
私は我が家の屋根裏で
ぼうっ、と読書に興じていた。
隣では、ガリガリと
ペンが文字を刻む音がうるさい。
そこらに散ったインクの匂いが
鼻をつくのも、もう慣れた。
羽根ペンを稚拙な持ち方で扱う彼が、
突如パァッ、と顔を上げて紙を持ち上げる。
「……ぞ、む！ ゾム！ 見て見てA！ 俺の名前。」
『はいはい。上手く書けてるね。』
へへへ、と笑うゾムは、
ペンで綴られた「ゾム」の字を掲げてご機嫌だ。
実は、もうこれで彼の名前を記した紙は10枚目になるのだが、
彼は飽きずに私にその成果を見せてくる。
「“お、れ、は……ゾム”！ 書けた！」
『はいはい。上手いね。
そろそろ昼餉の時間だから、下降りるよ。』
「おう！」
ゾムは鮮やかな緑色の双眸を細めて、にっこりと笑う。
カルガモの子のように、私の後ろを素直に付いてくる姿は、
とても元暗殺者には見えない。
年の近い弟か、従兄弟のように感じられた。
どうにも違和感が紛れず、
私は後ろを振り向いてゾムの顔を伺ってみる。
しかし、そこにいるのは
にこやかに首を傾げている無垢な男が居るだけだった。
「昼飯何が出るやろなあ？」
『……お手伝いさんが白身魚を買ったって言ってたから、多分魚料理だよ。』
「魚か！」
楽しみや、と笑う彼の顔を見ていると、
何とも言えない気分になってきた。
────まさかこんなことになるとはな…………
そう、私はこの暗殺者ゾムを、
現在うちの屋敷の屋根裏に住まわせているのだった。
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サツキ(プロフ) - ひいいん😭何度読み返しても素敵な作品です（ ; ; ）のんびり更新待ってます‼️ (10月25日 3時) (
レス) @page40 id: 59b14c1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬ - めちゃめちゃ好きで先が楽しみです！！更新楽しみに待ってます！ (8月17日 15時) (レス) @page40 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
亜鉛2℃(プロフ) - 更新ありがとうございます。お待ちしておりました。とても面白くて文に厚みがあって素敵です。これからも楽しみに待っております。 (2023年4月5日 15時) (レス) id: 7a92f90d7d (このIDを非表示/違反報告)
ユズ(プロフ) - 更新ありがとうございます〜!!!!!まじでずっと待ってました!!!!これからも頑張ってください!!!鬼面白いです!!!! (2023年3月29日 20時) (レス) @page39 id: 05561d72b4 (このIDを非表示/違反報告)
六時の虹(プロフ) - 更新ありがとうございます！この小説めっちゃ面白いです！ (2023年3月29日 10時) (レス) @page39 id: 6ed7129851 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そね
| 作成日時：2020年6月8日 23時
