愛情 ページ27
────手が冷たい。冷え切った水温で痺れてきた。
だが、まだ根を上げるほどではない。
私は蛇口を捻り、
カップとソーサーを洗った。
これで仕事は終わりだろうか、と
額を拭う。
「Aさん、ごめんなさいねぇ。
手伝わせてしまって。」
隣からの優しい声に、にっこり笑いかける。
『いえいえ、長い間お邪魔させてもらってますし、このくらいは。
グルッペンのお母様……は、この宿をやってどのくらいになるんですか？』
「そうね、ここに嫁いでからずっと、だから……19年くらいになるわね。」
『流石、ベテランですね。』
ははは、と笑いあう。
食器洗いを終えて、私は厨房を出た。
グルッペンのお母様の元に駆け寄る。
『あと何かお手伝いできることありますか？』
「いいわよ。
グルッペンのお友達で、お客様なのに。」
『いやあ、本当にご迷惑かけてるので。』
あと、これからもっとご迷惑かけるかもしれないので。
喉まで出かかった言葉を飲み込んで、私は笑った。
「でも、私たちもしばらく出かけることになってるから、いろいろ綺麗にしておかないと。」
グルッペンのお母様はそう言ってはにかんだ。
────そうなのだ。
グルッペンの提案で、
彼の御両親は親戚の家に泊まってもらうことになった。
理由は勿論、暗殺者から身を守るためだが、
２人には明かしていない。
「友人達とだけで寝泊まりしたい」と
彼が我が儘を言ったことにしたらしい。
私はその間の料理や家事、その他雑事を
習っておこう、とグルッペンのお母様のお手伝いを申し出た。
ただ、それだけではなく、
この宿を貸してくれたお礼もある。
『本当に、重ね重ねありがとうございます。』
グルッペンの御両親はどちらも上品で、
それでいて庶民らしい強かさを持っていた。
「いいのよ。あの子がお友達を呼んできてくれただけで、本当にうれしいから。」
嫌みや淀みもない言葉に、ほっとする。
彼女は、じゃあお茶でも淹れるわね、と
厨房の奥へと下がった。
私も準備しますよ、と声をかけようとしたところで、
ガタン、と床を踏む音が聞こえた。
音の鳴る方を見れば、
先ほど見送った2人が戻っていた。
彼らはコソコソと潜り込むように、
宿に入っていく。
「ただいま。」
「ただいま帰りました…………」
『お帰りなさい。』
ひとらんとエーミールだ。
着の身着のままの姿のひとらんに対して、エーミールはぼろ布を被っている。
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サツキ(プロフ) - ひいいん😭何度読み返しても素敵な作品です（ ; ; ）のんびり更新待ってます‼️ (10月25日 3時) (
レス) @page40 id: 59b14c1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬ - めちゃめちゃ好きで先が楽しみです！！更新楽しみに待ってます！ (8月17日 15時) (レス) @page40 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
亜鉛2℃(プロフ) - 更新ありがとうございます。お待ちしておりました。とても面白くて文に厚みがあって素敵です。これからも楽しみに待っております。 (2023年4月5日 15時) (レス) id: 7a92f90d7d (このIDを非表示/違反報告)
ユズ(プロフ) - 更新ありがとうございます〜!!!!!まじでずっと待ってました!!!!これからも頑張ってください!!!鬼面白いです!!!! (2023年3月29日 20時) (レス) @page39 id: 05561d72b4 (このIDを非表示/違反報告)
六時の虹(プロフ) - 更新ありがとうございます！この小説めっちゃ面白いです！ (2023年3月29日 10時) (レス) @page39 id: 6ed7129851 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そね
| 作成日時：2020年6月8日 23時
