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その日もまた、男はそこにいた。





川のせせらぎに重なり、楽器の音が響く。

空き家の壁に身を持たせ、瓢箪型のそれを抱えて弦を弾く姿。




今夜は満月だった。

いつもより多く降り注ぐ青い光のなかで、男は美しく浮き上がっていた。

弦を弾いて往復する、形のいい指先。





わたしは足を止めた。

月ではなく、音ではなく、その男に惹かれて。

なんてきれいなんだろう。

男性的な美をすべて掻き集めたような、手。






「・・・なんか用か?」






男の声を、わたしははじめてきいた。

身体の中心が震える。

心臓を直接その手で握りしめられているような気分になった。





「いえ・・・その」

「・・・・・」

「・・・きれいだな、と思いまして」




男の顔は、目深に被られたフードのせいでほとんど見えない。

でも、今、彼の目はわたしをじっと見上げているのだろうと______________なんとなくわかる。




「・・・きれい?」

「はい・・・」




闇を裂くような鮮やかな赤の羽織り。




「これか?」




男は楽器を鳴らす。

耳触りの良い和音が夜気に溶ける。




「それとも・・・これか」




また違う音を鳴らす。

わたしはその指を口に含みたいような、舌で爪先をなぞりたいような、そんな衝動に駆られた。





「・・・いえ」

「・・・・・」

「きれいというのは、あなたのことです」





街の喧騒が、いつもより遠くにきこえた。

彼は何も言わない。

黙ってこちらを見上げている。







わたしはそっと膝を落とし、弦に掛けられたままの彼の右手に顔を近づける。

そうして舌を出し、その親指の付け根をなめる。

夢中になって・・・彼の手を取り、衝動のままに指先に吸い付いた。

服が汚れることも気にせず、蹲るようにしながら。





「へえ・・・」





男は言った。





「オモロイ女」





わたしは自らの着物の合わせを開いた。

月明かりのせいで、肌の白さが際立つ。

胸を包みこむ下着は布が透けており、淡色に震えたつ花弁さえもが、きっと彼の目に。





「っ・・・ああ」

*→←苺は謳わば



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べに(プロフ) - ココナッツさん» うわあああああココナッツさん!ありがとうございますわたしも好きです(T T) (2018年3月14日 18時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - うわああああべにさんっ!うわああああ…(ワケわからなくてごめんなさい、汗)…好きですっ! (2018年3月14日 15時) (レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べに | 作成日時:2018年3月13日 0時

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