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月光の下、薄く開いた唇がふたつ合わさる。
彼の唇は桜の花びらのようだと思った。
月夜に舞い散る桜。
触れたら消えてしまうのではないかと疑うほど繊細に、それでいて、危険に香り立つ。
わたしはすぐに虜になった。
華奢な肩にしがみつき、何度もそれを味わう。
そうして口づけを交わしながら、手を伸ばし、彼の顔を覆うフードをそっと取り払った。
美し過ぎるその姿が、月下の夜に露わになった。
三十年ほど前に流行ったという奇病。
主に若い世代に蔓延した病で、特に妊娠中の女性が罹ると、奇形児が産まれることで有名だった。
産まれた赤子は瞳孔が血のように紅く、額に角のようなこぶを有することから、奇病にかけて鬼病と呼ばれたらしい。
彼はその病が生んだ犠牲者だった。
彼の漆黒の髪からは、大きく尖った角がのぞく。
妖しく真っ赤に燃えるひとみも。
口元に飛び出した鋭い牙も。
ああ、なんて美しいのだろうと_______________心を奪われ、見惚れてしまう。
「こわくないんか」
彼は言った。
わたしはしずかに首を横に振った。
「こわくなんかありません。
あの月より、丘の桜並木より、わたしにとってはあなたが・・・すばるが、世界で一番美しいのです」
生きろ、と。
あの日あなたが言葉をくれたから。
饐えたにおいに満ちた日々も、乗り越えてこれた。
彼はようやく安心したように微笑む。
「A」
「はい」
「A・・・」
この街で、わたしのほんとうの名を知るのはあなただけだった。
そのことだけで、わたしはもう幸せだった。
首筋に、再び牙が触れる。
それが肌を突き破った感覚を、わたしは生涯忘れないだろう。
食い込む歯、蠢く舌、撫でられる腰。
肩から着物が落ち、そのいとおしい指先が、わたしの薄汚れた浅ましい身体をあいしてゆく。
「生きよう」
彼が言った。
わたしは痛みと快感で、返事ができなかった。
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べに(プロフ) - ココナッツさん» うわあああああココナッツさん！ありがとうございますわたしも好きです(T T) (2018年3月14日 18時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - うわああああべにさんっ！うわああああ…(ワケわからなくてごめんなさい、汗)…好きですっ！ (2018年3月14日 15時) (レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年3月13日 0時
