第十話 ページ10
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仕事が終わりアパートに帰る。
部屋の電気はまだついていた。
「ただいま〜」
�爐�かえり�瓩鰐気ぁ�
元々言ってくれない人だからもう慣れた。
いつも通り真っ先に洗面所に向かって、手洗いうがいアルコール消毒。
臣のチェックをもらうためリビングのドアだけ開けて顔を覗かせる。
「臣?」
呼んでも応答がない。
「もう入っちゃうからねー」
リビングに入ってその姿を探すと、珍しくソファーで寝ていた。
ソファーの下に腰を下ろして、髪を指で遊ぶように弄る。
クセのあるその髪は少し湿っていた。
「ねえ、さっきなんて言おうとしてたの」
勿論それに臣は答えない。
聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ。
だからこれは私のただの独り言。
『佐久早のどこが好きなの⁇』
木兎さんの言葉がまた脳内で聞こえる。
「臣はさ、私のどこが好きなの。6年間もずっと」
そもそも本当に私の事が好きなのか。
臣の口から好きだなんて言葉、告白された時以来言われた事がない。
外食もしない、普通のカップルみたいにデートにも行かない。
家でテレビを見てご飯を食べて掃除して、たまに抱き合って過ごすだけ。
「はぁ…」
臣の基準に合わせて付き合うのも、そろそろ限界が近い気がする。
私はただ、好きな人に愛されている実感が欲しいだけだ。
不器用でもいいから、私が臣に好きだよって伝えるように、年に1度でもいいから。
ちゃんと言葉で言って欲しい。
でも臣は嫌なんだよね、分かってるよ。
期待するだけ、伝えるだけ無駄だって分かってる。
それでも私は臣の事をずっと好きでい続けた。
それも本人に伝えてきた。それなのに
何年経っても彼の心の内が分からないままで、まるで私だけが好きみたいで、なんだか急に虚しくなってきたんだ。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年6月19日 16時
