第四十四話 ページ44
.
翌日の営業はボロボロだった。
気が滅入ってしまって、お皿は割るし注文は間違えるし、得意の営業スマイルも全然笑えてなかったらしい。
おかげで社員はもちろんバイトの子達にも心配された。
こういう時「おい、仕事終わり飲みにいくぞ」と誘ってくれる黒尾にはほんと感謝でしかない。
「それで? 古森の話聞いて揺らいじゃったって⁇」
事情を説明すると、ドストレートに問われた。
揺らいでしまったのだろうか、私は。
2年以上も前に別れた元彼の、本音と事実を知らされて思い出して。
質問に答えられず、逃げるようにジョッキに口をつけた。
そして2年前の夏祭りのことを思い出す。
そもそも人混み嫌いの臣が自ら夏祭りに来てた事自体おかしかった。
あの時「俺が変わったらA、」その先の言葉を私は聞かなかった。
何を言おうとしてた⁇ あんな風に自分の考えや、やり方を改めようと提案してきた事なんて無かったのに。
(お前は…俺の事忘れられるのかよ。)
(…忘れるよ。臣じゃない誰かと付き合って、幸せになって、少しずつ思い出さなくなって、そのうち臣の事なんか忘れるよ。)
思い出さないようにしてた臣の表情を、あの夏祭り以来初めて脳内で再生された。
胸が痛い、苦しい。
「臣は、本当に私の事が好きだっと思う?」
往生際が悪いな。分かってるくせに。
「…もう認めようぜ。A、何したって言ったってお前は佐久早の事がまだ好きなんだよ。きっとこの先も忘れられねえよ。」
少し呆れたような顔をしながら、私の質問を無視して諭すように言われた。
否定できない。
もうそういう事だよ。って頭の中でもう1人の自分も諭してる。
でも、今更どうしたらいい⁇
臣と別れてもう2年以上経ってるし、そもそも私には侑君がいる。
「今の心境のまま付き合い続けるのは彼氏さんに失礼なんじゃねーの」
それもそうだ。
でも、でもさ。
「今更臣の事がまだ好きだから別れてほしいなんて…」
あんなに優しくて一途で、無邪気な笑顔で真っ直ぐ「大好き」と伝えてくれる侑君を私は裏切るのか?
無理だ。
私にはそんなことできない。
偽善者だって言われてもいい最低な奴だって罵られても。
私は侑君を好きな事には変わりないし、彼を私の自己中すぎるこんな形で傷つけるくらいなら、臣への想いなど握り潰して捨てたらいい。
それでいい。
それがいい。
.
1263人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:林檎 | 作成日時:2020年6月19日 16時