第三十二話 ページ32
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「あ、おかえり侑く…」
幸い1人でいたAが、目の前に現れた人物が宮じゃないと気付いた。
信じられない様な目で俺を見てる。
なんでこんなとこにいるんだって、言われなくても分かった。
「臣…」
数秒経って、聞き慣れた筈のその呼び名に俺は少し泣きたくなった。
何を言っていいのか、何から話せばいいのか。
伝えたい事は山ほどあるのに、いざAを目の前にすると言葉に悩んだ。
「お前…なんで電話出ねえんだよ。」
失敗した。第一声に出すべき言葉はそれじゃなかった。
「なんでって……分からないの?」
分かるよ。分かってる。
お前が俺の連絡を頑なに出ない理由。
俺もそこまで馬鹿じゃない。
沈黙が続く。
何か言わねえと、でもまた俺の言葉1つでこいつを傷付けたら、怒らせたら、泣せたら、そう考えてしまって何も言い出せない。
するとAは何も言わずにその場から立ち去ろうとして咄嗟に声が出た。
「おい、まだ話終わってねえ」
「話⁇ 話す事なんてないでしょ⁇ 話って、じゃあ臣は今まで喧嘩した時私の話聞いてくれてた⁇」
また失敗した。
怒らせてしまった。
Aの言っている事は正しい、俺は喧嘩の度こいつの話をまともに聞いてこなかった。
めんどくさいだなんて酷い事を言って。
だから俺は謝る事しかできない。
「その場しのぎで謝らないでよ、何にも解決してないって…」
その場しのぎなんかじゃない。
本気で悪いと思ってる。
俺はお前とまだ一緒にいたいんだよ。
「もう一緒にいれない、臣といても虚しいだけなんだよ。もう疲れた…」
その言葉に心臓を刺された。
疲れた。あの時もお前そう言ったよな、俺はお前を疲れさせてたんだなって心底辛くなったよ。
「……俺が変わったらいいのか⁇」
考え直してくれ。
「俺が変わったらA、」
俺の所にまた戻ってきてくれるか⁇
そう最後まで伝える事は出来なかった。
「変わらなくていい、臣は臣のままでいてよ。」
なあ、そしたら俺はどうすればいい⁇
今までの俺じゃお前を疲れさせてしまう。
泣かせてしまう。傷付かせてしまう。
どうすれば俺はお前にまた好きだと言ってもらえる?
なあ、お前は
「お前は…俺の事忘れられるのかよ。」
「…忘れるよ。臣じゃない誰かと付き合って、幸せになって、少しずつ思い出さなくなって、そのうち臣の事なんか忘れるよ。」
ああこれはまるで、悪夢だな
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作者名:林檎 | 作成日時:2020年6月19日 16時