Phase02 ページ4
水平に吹き飛んだ彼はトタンの屋根を貫き、木組みの小屋がへし折れる。井戸の垣根を粉砕しながら男は擂鉢の底へと転がり落ちていく。
「《羊》だ!」
男の仲間が声を上げた。同時に男の名前も。
太宰。今吹き飛ばされた男の名前なのだろう。
男の名を口にした男を文也は冷めた目で見つめる。
よっこらせっ、と立ち上がる彼女は地べたに座り込む相棒、零魔に手を差し出す。
「立てるかの?」
「無理。……手伝って?」
「仕方ないのぅ。全く世話のやける」
零魔を引っ張り起こした文也はもう一度よっこらせと彼女を背負う。
「………いかなくていいの?」
「何処にじゃ」
「わかってる…くせに……」
「そうじゃな」
他愛もない会話を交わし歩いた先に中也はいた。
「兄さ……」
「君はもう少し牛乳を飲んだ方がいい。背が低すぎる」
兄さん、と声を掛けようと文也は口を開く。だが太宰の声に遮られてしまった。直後に響く打撃音。中也が太宰を蹴り上げた音だ。屋上から転がり落ちた彼は建物の垣根に激突する。
「余計なお世話だこの糞野郎!俺は十五歳だしこれから伸びるんだよ!」
どうやら兄は伸びない身長を気にしているようだった。
そういえば、と文也は思案する。数センチ伸びた彼女の身長を彼が恨めしそうに見ていたことを思い出したのだ。
あの時は何故そんな視線を向けてくるのか分からなかったが今ようやく原因がわかった。文也はぶふっと思わず吹き出しそうになる。
「ふふ……では呪いをかけてあげよう。僕は同じ十五歳でこれから伸びるが君は大して伸びない」
それはさらに文也の笑いを誘った。その言葉がトドメとなって耐えきれずぶはっと文也は笑う。
「ははっ。あはははっ!!」
思わず腹を抱えバンバンと地面を叩く彼女。同時にそれは背負っていた零魔を落とすことになり、零魔は二度目の落下を経験することになる。
「ひーー。ひーーっ腹痛い!!」
「何時まで笑ってやがる文也!!」
「だ、だって……まさかそんなこと、兄さんが気にしてるなんて思いもしなかったからのう。すまぬな、しばらく、笑いは、続きそうじゃ」
区切りつつ、ケタケタの涙をこさえて笑う彼女の耳に「いたい」という零魔の声が入る。
「……嗚呼。お主を背負っていること忘れとったわ。すまぬな、怪我はないか?」
「……ない」
「上出来じゃ」
こくりと頭を上下に動かす彼女に文也は満足そうな顔をする。その後すぐに思い出したかのように吐き出して肩を小刻みに震わせた。
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作者名:フェルマーとSasa猫 | 作者ホームページ:無し
作成日時:2022年7月15日 20時