わたしのスーパーヒーロー ページ6
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たった一本。
決して、試合を決める1点ではなかった。
されど一本。
でも、あの瞬間から、私は彼の虜なのだ。
会場でカメラを構えて、いつも追いかけるのは一人の選手ばかりだ。
今、武智くんと話しながらアップをしている彼、涼木Aくん。
彼に魅了された日。
あの日、ルールもぼんやりとしか知らない私は、バレー好きな友人に誘われて、JTとパナソニックの試合を見に来ていた。
友人はパナソニックの山内くんのファンらしく、「ミドルブロッカーっていうポジションで…クイックが…ブロックが……」と、そのポジションの知識だけはさらに熱を込めて話していたから、私もよく覚えていた。
試合が始まってからは、ただただ「すごい」としか言えなくて、「なんであんなに速いボールを打てるんだろう」とか、逆に「なんであんなに速いボールをレシーブできるんだろう」とか。素人からすれば全部が未知で、異次元で、ルールを詳しく知らなくても興奮した。
ローテーションもいまいち理解できていなかったが、一人の選手がコートに入ってきた瞬間、私は目を奪われた。
友人に「あの人、なんて選手なの?」と聞くと、「JTの涼木くんね。涼木Aくん。山内くんと同じミドルブロッカーだよ。」と教えてくれた。
「涼木くん…」と、小声で復唱して、再び彼を目で追いかける。
スラッとしたスタイルで、少し癖のある黒髪をセンター分けにしていて、涼しい目元と左の口元にある黒子が印象的な顔立ちの選手だった。
この時の私は「顔が整った人だなあ」と、彼のルックスに目を奪われたわけだ。
なんとなく目が離せなくて、コート上の彼を追う。すると、バシンッと大きな音が体育館に響き渡って、笛が鳴る。
きっと、一瞬のプレーだったのだろう。でも、私には全てスローモーションに見えた。
彼が綺麗に伸ばした手に相手のスパイクがあたる瞬間も、そのままボールがコートに落ちる瞬間も、彼の着地の瞬間も。なにもかもが、ゆっくりに見えたのだ。
ガッツポーズをした彼は、仲間とコートで輪をつくり、笑っている。
一本のブロック。その一本のブロックで、私は魅了された。
「私、涼木くんのこと応援する」と、試合後に友人に話すと、「ようこそ、男子バレーの沼へ」とにっこり笑われた。
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RIO - 小説前から読ませてもらってるんですけど、めっちゃ好きです(唐突) ほんっまにこの作品面白くて! 更新頑張ってください! (2021年12月8日 0時) (レス) @page13 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午睡 | 作成日時:2021年10月30日 22時