愛故に。

29 ページ30

.









「中務さーん、お願いしまーす！」




中務さんが呼ばれたことに過剰反応して、思わず上がってしまった肩。


落ち着け私...別になにも思わなくていいんだ。



シャッターをきる音が響き渡って、たまに聞こえる中務さんと工藤さんの声。


カメラマンの人も喋ってるのに、私には2人の声が大きく聞こえてしまう。



見たくない、でも気になる。


目に入るのは、苦しいものだと知っているのに。




「中務くん、そこ後ろから抱きしめられる？」




何の迷いもなく腕を回した中務さん。


胸がさっきよりも、ずっとずっと苦しくて。



なんでこんなに痛いのかも、なんでこんなに嫌なのかもわからない。



「顎あげて、キス寸前くらいで止めてー！」




私はまた、逃げてしまうんだ。



『ちょっと、トイレ行ってくる...っ』


亜嵐「っえ、A？」





涙が頬を伝ったまま。


重い扉をそっと閉めて、声を押し殺した。




嫌だ。


止まらない涙を乱雑に拭って、俯きながら化粧室へ向かった。








.

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す