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クレーンゲームのアームが
(人1)の操作でぬいぐるみを掴むのをボーッと眺める。
それが上まで持ち上がると動く直前に、
明らかにパワーが弱まり不自然に途中で落ちる。
「やっぱこの手のゲームは確率か」
と呟きつつ見てるのにも飽きてきたので
鞄から先程買って貰ったラノベを出して読み始めた。
「あー、もう少しだったのにー…」
「諦めろ、そのぬいぐるみはお前の所に来たくないんだよ」
「あはは、酷いなあ」
それでもまだクレーンゲームを続けるので
俺は近くの休憩用のベンチに座ると
本格的に本の文字を目で追う事に集中し始めた。
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どれくらいの時間が経っただろう。
隣に座られる感覚に本から視線を移すと
そこにはドヤ顔でぬいぐるみを抱きしめる(人1)が居た。
「見てみて、取れたよ!」
「…確率来るまでやったのか」
「どうしても欲しかったんだもん」
「いくらだった」
「3000円くらい?」
「高。買えるじゃねーか」
よくあるお約束なら途中で「俺が取ってやるよ」
とかカッコつけるものなのだろうけれど
生憎と俺はクレーンゲームなんざ得意じゃねぇんだよ。
まあ本人も自分で取って満足してるようだし。
「目的果たしたなら帰るか」
「……帰したくない、なー」
「…」
だからそれ相場は男が言う台詞なんだよ。
なんでお前が言ってんだ。
そんで何で俺もちょっとグッときてんだ。
…まあ、別に今日一日だけだし
部活が始まるまでなら付き合ってやるのも悪くないか。
「ならこれからどうする」
「んー…と、行きたい所とかは無いかな…」
「ねぇのかよ」
「あ、屋上とかいかない?学校の屋上。
少し早いけどお昼コンビニとかで買って食べようよ」
「……分かった」
その提案に腹も減ったし良いかと思い本をしまって立ち上がると
(人1)は人目も気にせず俺の手に触れた。
その感触にまだ少しだけ内心ビックリするけれど。
…俺自身も、手を繋ぐのくらいには慣れてきた、か。
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作者名:由麻 | 作成日時:2024年3月26日 0時