差し伸べた手は。 ページ12
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コンコン、と扉をノックされた音で目が覚めた。上手く眠れた気がしない。泣いてしまったせいかじくじくと頭が痛む。ぼんやりとしたまま痛みから抜け出そうと頭を叩いていれば、また扉をノックされる。
上擦った返事に扉が開いて、隙間から桃色の髪が覗いた。
「……おはよ」
「おはよう、ございます」
「朝ごはん。呼びに来た」
様子を伺うように恐る恐る入ってきたなるせさんは、今日もふわふわの可愛らしい服装だった。体の気だるさが抜けずに、尚もベッドの上に座ったままの私の手を彼がゆるりとさらう。ぱちり。目が合って、心の奥がざわざわした。
____風が吹き抜ける音がする。がやがやとした雑踏の音がする。誰かを見上げているような気が、する。
「……A?」
低い声で呼ばれた名前に、ハッと意識が急浮上した。ばく、ばく、と自分の心臓の音が耳に響く。心配そうに眉を下げたなるせさんが、大丈夫?と問いかけた。一気に肺に空気が立ちこめる。
「具合悪い?」
「へ、あ、全然大丈夫です……!」
「んじゃいこ、ちゃんめい絶対もう食べてる」
あいつの食欲えぐいからね、とケラケラ笑うなるせさんの目は慈愛に満ちていてあたたかい。てくてくと効果音でもつきそうな足取りで私の前を先導するなるせさんが、鼻歌交じりに歩いていく。
特に会話をすることも無く長い廊下を歩いていれば、さっきフラッシュバックのように一瞬頭に浮かんだ景色も音も全部消え失せてしまった。
___なんだったんだろう、あれ。
考えれば考えるほど頭がぼんやりとしてくる。
……もう考えるのやめよ。
振り払うように顔をあげれば、口いっぱいに食べ物を頬張っためいちゃんさんと目が合う。そこは昨日と同じ、大きな長いテーブルのあるお部屋だった。
おはよう、と言ったのだろうか、口いっぱいのままもごもごと話し出すから、後ろから出てきたあらきさんに頭を小突かれている。
「おはよーございます、眠れました?」
「えっと……はい、ぼちぼち……」
「はは、まあ落ち着かねぇよな。好き嫌いある?昨日聞き忘れてすみませんね」
「特にないです、なんでも食べます」
なるせと大違いじゃん、と笑ったあらきさんを、今度はなるせさんが小突いた。
……めちゃめちゃいい匂いする。
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をわ(プロフ) - こちらも拝見させていただきました!口調がそれぞれ声で想像できるくらい理想ですごく素敵です…!更新応援してます! (1月5日 5時) (レス) @page8 id: ab4027dd5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらのその。 | 作成日時:2023年12月19日 1時