さんつかみ ページ12
細く、白く、しなやかな指
細く、黒く、しなやかな弓
その二つが相見えるとき、遥か先に見える的は、いとも容易く射抜かれる。
「綺麗だ……」
思わず声が漏れた。
毛筆で「私語厳禁」と書かれた仰々しい張り紙が、風に煽られ音を立てた。それに、周囲の冷たい視線も重なるのだからたまらない。そそくさと立ち去っても、無理はないと思うのだ。
場内から出て、どれくらい時間が経っただろう。空は赤紫に染まり始め、うろこ雲は足早に動いていく。
「よ、騒音おとこ」
軽快な声とともに肩が叩かれる。「騒音おとこ」とは何事だ。と言おうとして息を飲んだ。
部活のTシャツに学校指定の短パン。見慣れた姿だ。
しかし、さっきの姿を見た後だと、なぜだか魅力的に見える。なんだか、遠い人のような、気が……
「騒音おとこじゃ、ねぇよ」
やっと声を絞り出し、気弱な反論をする。こちらの異変に気がついたのか、彼女は少し目を丸くした。
「え、どうしたの……あ、わかった。さっき私に見とれてたもんねー？」
イタズラっぽく笑う横顔を眺めつつ、並んで校門に向かう。間違いじゃないのがまた恥ずかしかった。
だから、認めてやろうと思った
「そうだよ、綺麗だった」
彼女が一瞬こちらを向き、笑う。あの笑い方は、照れている証拠だ。
「また、見に行ってもいいか」
懇願にも近い申し出を、なんてことないように彼女は快諾する。想像以上に心が沸き立つのを感じた。
「私語厳禁」と書かれた紙も
冷ややかな視線も
絵に描いたような夕暮れも
全部どうでもいいと思えた、あの場所。
細く、白く、しなやかな指
細く、黒く、しなやかな弓
その二つが相見えるとき、
そこは、彼女の世界になる。
━━━━━━━━━━━━━━━
夕暮れ/射る/彼女の世界
将来を期待される弓道部の女の子と、その子に憧れる男の子の話。
メディアにも取り上げられて、有名人になっていく彼女。嬉しい反面、ちょっと寂しい。でもやっぱり、弓道やってる彼女は綺麗で……みたいな感じです。
次回！
「彼女の専属マネージャー」
でお送りします、お楽しみに！(続きません)
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スピカ(プロフ) - あの作品…とても良いとは思っていたけどこんな風に小説化するとは…語彙力高い！ (2019年11月12日 10時) (
レス) id: 107a705257 (このIDを非表示/違反報告)
冴(プロフ) - なんか……素敵！どこがいいとは言えないです語彙力よ来い。面白いので頑張って下さい！ (2019年10月27日 18時) (レス) id: cd880b444a (このIDを非表示/違反報告)
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