夕凪を忘れた頃に (ページ18)

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「なあ、今日寒いよな？」

「うーん、まあね」

明日までの課題を必死にこなすわたしの横で、樹は暇そうにスマホをいじっていた。確かこの課題、樹も終わってないって言ってたのに大丈夫なんだろうか。

「よし、お前ん家で鍋やるべ」

「うーん…はあ？」

「何鍋？キムチ？トマト？豆乳？シンプルに水炊きとかでもアリじゃん？」

いつもの倍くらいのスピードでキーボードを叩いていると、また樹が突拍子もないことを言い始めた。そろそろ勘弁して欲しいと思いながら樹を見ると、にこにこしながらスマホを見ている。

「何言ってんの、何でまたウチなわけ？」

「何鍋か決める権利与えるから家貸して」

「…トマトでシメはチーズリゾット」

「完璧」

窓の隙間から拭いてきた風が肌寒くて思わず鍋を食べたくなってしまった。わたしの口が完全にトマト鍋になったところで、鍋パと称されたグループラインに「Aん家！8時に集合！鍋！」とメッセージが入った。

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「チーズ買ってきたよ〜」

「サキちゃんありがとう〜」

8時になってウチに続々と人が集合した。既にお酒を飲んでいる樹はテレビを見て盛り上がっているし、京本は鍋を出したっきりソファで寝ている。

「お菓子とジュース買ってきた！」

「お邪魔しまーす」

遅れてきたジェシーくんと慎太郎くんはたくさんのお菓子とジュース、お酒を持ってきてくれた。ジェシーくんはまだウチに慣れていないのか前回と同じように隅っこに立っている。

「ねえAちゃん、コップ借りて良い？」

「いいよ〜。人数分出しておいてくれる？」

「オッケー」

慎太郎くんは食材を切っているわたしの後ろで食器やコップを準備し始めた。その様子を見たサキちゃんは怪訝そうな顔で

「え、森本くんなんでそんなAん家に馴染んでんの？ふたりって…」

と言った。

「この前見たかった映画のDVD見さしてもらったんだよね」

「え！？なに、慎太郎とAってそういう！？」

テレビに夢中だった樹はソファから乗り出して会話に参加し始めた。その顔はニヤニヤしていてちょっとうざい。

「別にそういうことじゃ」

「あー、まだちゃんとAちゃんに言ってないから、この話はまた今度ね」

わたしの言葉に被せるように慎太郎くんがそう言う。驚いて慎太郎くんの方を見ると照れ臭そうに笑っていた。その表情に思わず照れると、サキちゃんはわたしの腕をつんっと押した。

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