君を信じてみたいから

デパート、にて ページ39

＊夢主に対して少し、嫌な描写があります。不快になりそうな方は、閲覧にご注意いただけると嬉しいです

　結局迷った末、お礼の品はクッキーにすることにした。

　甘さは控えめのもので、確か、実家でもよく兄が食べていた。

　飽くまでも実家が基準になってしまう私自身に心の内でため息をつきながら、菓子屋を後にした時だった。

　ふと、視界のはしに光が見えた。

　ぱしゃり。

　それが、フラッシュがたかれる音だと気づくまで、少しかかった。

　ふと、気づいた。

　何人かが、こちらを見ていた。

　笑いながら。

　手元には、週刊の『スパイデー』があって、私はその表紙に目が釘付けになる。

　その人たちは、スマホを構えている。

　どうしてかなんてすぐわかるはずなのに、蔑むような瞳に、見慣れた色の瞳に、頭が働かなくて、足が膠で接着されたかのように動かなくて。

　なんとか背中を向ける。

　もつれる足を叱咤しながら、角を曲がろうとした時。

　別の角からにゅっと、手が伸びた。

　冗談ではなく、本当に。

　その手は躊躇なく私の腕を掴み、引っ張る。

　バランスを崩した体は、何か柔らかい、布の感触に受け止められた。

　直後に、腰に手が回される。

　「あの、なんですか」と、言おうとしたが、すぐに口が塞がれる。
　
　温かい感触と共に、耳触りの良い、アルトが聞こえた。


「…静かに。見つかりたいのか？」

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