それは気遣いのようなもの ページ31
「A」「はい!」
私は、目の前にいる美しい男性を見つめた。
蒼、翠。
親に命令されて許嫁となったこの人に、私はまだ馴染めていない。
そんな自己中心的な劣等感もあって、翠様の言動一つ一つをおそろしく感じてしまった。
チラリとこちらをみた翠様は、君は、と呟いた。
「君は、昨日何時に寝たんだ」
その疑問に、驚く。どうしてそんなことを聞くのだろう。まさか、行動に失礼があったのだろうか。
「え、と、多分…」
指折り数えて、答えようとした時。
「!」
ふと、体が揺れた気がした。気のせいだろうか。地震?
そう思った瞬間に。景色が、変わった。
自分の体が、倒れかけていると気づくのに数秒かかった。
もみじさんから教えてもらった受け身を取る暇もない。せめて、硬く瞼を閉じ、衝撃を覚悟した。
…その痛みは、来なかった。
(…え?)
恐る恐る、瞼を開く。
自分の体は、確かに誰かに支えられていて。
抱き止めてもらったのだ、とわかった。申し訳ありません、ごめんなさい。そう言おうとして、顔を上げて。
心臓が、止まる。
(なんてきれいな、翡翠の瞳…)
それだけではない。透き通るような黒髪も。白い肌も。全てが端正で、美しい。
(私とは大違いだ)
つい、比べてしまうほどに。
見つめ続けていると、やがて翠様が、立ち上がった。
…え。
「こ、これはあの」「君、自室はどこ」「え?」「ろくに寝ていないだろう。どこだと聞いているんだ」「え、その」
187号室です。
咄嗟に答えたその言葉を聞いた瞬間に、翠様は大股で歩き始めた。
謝る暇もない。どうしたらいいだろう。というか、そもそもどうして私は持ち上げられたまま横抱きで…?
今更下ろして下さい、ともいえない。
けれど、今のこの翠様の行動は。
まるで、私を心配してくださっているかのようで…。
困っていると、翠様の冷ややかな声が聞こえた。
「…それと、部屋に入ったら注意したい点が何点かある。今のうちに心の覚悟をしておくように」
…やっぱり、冷たい方なのかも知れないと。
私はやはり、困った顔しかできなかった。
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沙月かぐや - 沙月かぐやさん» 結局戻ってきました。また更新をガラパゴスカメスピードで始めます。よろしくお願いします (10月28日 18時) (レス) @page47 id: f5040de9d0 (このIDを非表示/違反報告)
沙月かぐや - プロフィールにも書いたとおり、短編集を作りました。まだ何も書いていませんが、よろしければそちらもお願いします。いつも応援、ありがとうございます。 (2022年12月29日 20時) (レス) id: b3854d6ed6 (このIDを非表示/違反報告)
沙月かぐや - さくにょさん» 本当ですか!?まだ裏つくに慣れてなくて、全然そういうことに詳しくないので、教えていただけて本当に嬉しいです!書き直しますね!コメントの件ですが、お気になさらず…いつも本当に力をもらっています、ありがとうございます (2022年12月10日 21時) (レス) id: df27e88f4d (このIDを非表示/違反報告)
さくにょ(プロフ) - 最近続けてコメントしてしまっていて・・申し訳ありません💦ただ、かぐやさんが断念された「や」から始まって「つ」で終わるものですが、二つの漢字の間に全角の間を入れると打ち込めるはずです!!是非やってみてください! (2022年12月10日 20時) (レス) id: b15bd042db (このIDを非表示/違反報告)
さくにょ(プロフ) - 沙月かぐやさん» そうなんですね!嬉しいです!是非コメントを((殴 私もいつも楽しませていただいています! (2022年12月7日 22時) (レス) id: 075aa05b66 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沙月かぐや | 作成日時:2022年1月16日 16時